認識機能障害および認知症のない高齢者において、好ましくない生活様式と高い遺伝的リスクの双方によって認知症リスクは増加し、同じ遺伝的リスクが高い集団であっても、生活様式が好ましい群はリスクが低いことが、英国・エクセター大学のIlianna Lourida氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2019年7月14日号に掲載された。遺伝的要因により認知症リスクは増加することが知られている。一方、生活様式の改善によってこのリスクをどの程度減弱できるかは明らかになっていない。
多遺伝子性リスクと健康的な生活様式で認知症リスクを評価
研究グループは、健康的な生活様式は遺伝的リスクとは無関係に認知症リスクを低減するか評価することを目的に、後ろ向きコホート研究を行った(英国・UK Biobankの助成による)。
英国の人口ベースのコホートであるUK Biobank(登録期間2006~10年)の参加者のうち、ベースライン時に認識機能障害および認知症のない60歳以上の欧州系の地域住民を対象とし、2016年または2017年まで追跡した。
アルツハイマー病と認知症に関連する一般的な遺伝的バリアントの負荷を表す多遺伝子性リスクスコアを構築し、五分位に基づき遺伝的リスクを3段階に分類した(低リスク:第1[最低]五分位、中リスク:第2~4五分位、高リスク:第5[最高]五分位)。
健康的な生活様式の重み付きスコアは、4つの十分に確立された認知症リスク因子からなる指標(非喫煙、定期的な身体活動、健康的な食事、中等度のアルコール摂取)に基づき3段階に分類した(好ましい:健康的な生活様式因子の数が3または4つ、中間的:同2つ、好ましくない:同0または1つ)。
主要アウトカムは、全原因による認知症の新規発症とし、病院の入院/死亡記録で確認した。
遺伝的リスクを問わず、健康的な生活様式は認知症リスクを低減
19万6,383例(平均年齢64.1[SD 2.9]歳、女性52.7%)が解析に含まれた。観察人年は154万5,433人年(フォローアップ期間中央値8.0年[IQR:7.4~8.6])で、この間に1,769例が認知症を発症した。
生活様式は、「好ましい」が68.1%、「中間的」が23.6%、「好ましくない」が8.2%であった。遺伝的リスクは、高リスクが20%、中リスクが60%、低リスクが20%だった。
遺伝的リスクが高い参加者のうち、1.23%(95%信頼区間[CI]:1.13~1.35)が認知症を発症し、これは低リスク集団の発症率0.63%(0.56~0.71)と比較して有意に高かった(補正後ハザード比[HR]:1.91、1.64~2.23、p<0.001)。また、中リスク集団も、低リスク集団に比べ認知症リスクが有意に高かった(1.37、1.20~1.58、p<0.001)。
生活様式が好ましくない参加者のうち、1.16%(95%CI:1.01~1.34)が認知症を発症し、好ましい集団の発症率0.82%(0.77~0.87)に比べ有意に高かった(補正後HR:1.35、1.15~1.58、p<0.001)。中間的集団も、好ましい集団に比し認知症リスクが有意に高かった(1.17、1.04~1.31、p<0.009)。
遺伝的リスクが高い集団では生活様式が好ましい群は認知症リスクが低い
遺伝的リスクが高リスクかつ生活様式が好ましくない参加者のうち、1.78%(95%CI:1.38~2.28)が認知症を発症し、低リスクかつ生活様式が好ましい集団の発症率0.56%(0.48~0.66)に比べ有意に高かった(補正後HR:2.83、2.09~3.83、p<0.001)。また、重み付けされた健康的な生活様式スコアと、多遺伝子性リスクスコアには、有意な相互作用は認めなかった(p=0.99)。これは、生活様式因子と認知症の関連は、遺伝的リスクに基づいて実質的に変化しなかったことを示す。
遺伝的リスクが高い参加者のうち、生活様式が好ましい集団の認知症発症率は1.13%(95%CI:1.01~1.26)であり、好ましくない集団の1.78%(95%CI:1.38~2.28)と比較して有意に低かった(0.68、0.51~0.90、p=0.008)。
著者は、「遺伝的リスクが高い集団では、生活様式が好ましい群は好ましくない群よりも認知症リスクが低いことが示された」とまとめ、「この集団の生活様式が好ましい群における認知症の絶対リスク低減率は0.65%であり、これは生活様式が原因の場合、10年間で遺伝的リスクが高い集団に属する生活様式が好ましくない121例を好ましい生活様式に改善することで、1例の認知症が予防可能であることを意味する」としている。
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(医学ライター 菅野 守)