非誘発性の静脈血栓塞栓症(VTE)の初回エピソードを発症し、3ヵ月を超える抗凝固療法を終了した患者における累積VTE再発率は、2年で16%、5年で25%、10年では36%に達することが、カナダ・オタワ大学のFaizan Khan氏らMARVELOUS共同研究グループの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年7月24日号に掲載された。抗凝固療法は、非誘発性VTEの初回エピソード後のVTE再発リスクの抑制において高い効果を発揮するが、この臨床的な有益性は抗凝固療法を中止すると維持されなくなる。抗凝固療法を無期限に中止または継続すべきかの判断には、中止した場合のVTE再発と、継続した場合の大出血という長期的なリスクとのバランスの考慮が求められるが、中止後のVTE再発の長期的なリスクは明確でないという。
中止後の長期のVTE再発率をメタ解析で評価
研究グループは、非誘発性VTEの初回エピソード例において、抗凝固療法中止後のVTE再発を評価し、最長10年の累積VTE再発率を検討する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成による)。
2019年3月15日までに、医学データベースに登録された文献を検索した。対象は、非誘発性VTEの初回イベントを発症し、3ヵ月以上の抗凝固療法を終了した患者において、治療中止後の症候性VTEの再発について報告した、無作為化対照比較試験または前向きコホート研究とした。
2人の研究者が独立的に試験選出・データ抽出を行い、バイアスリスクを評価。適格と判定された試験のデータについて、各論文執筆者に確認を求めた。個々の研究の抗凝固療法中止後のVTE再発イベントの発生率および追跡期間の人年を算出し、変量効果メタ解析でデータを統合した。
男性で再発率が高い傾向、再発による死亡は4%
18件の研究(7,515例)が解析に含まれた。4件が前向き観察コホート研究、14件は無作為化対照比較試験であった。すべての研究が、Newcastle-Ottawaスケールで「質が高い」と判定された。
抗凝固療法中止後100人年当たりのVTE再発率は、1年時が10.3件(95%信頼区間[CI]:8.6~12.1)、2年時が6.3件(5.1~7.7)、3~5年が3.8件/年(3.2~4.5)、6~10年は3.1件/年(1.7~4.9)であった。また、累積VTE再発率は、2年時が16%(13~19)、5年時が25%(21~29)、10年時は36%(28~45)であった。
男女別の抗凝固療法中止後1年の100人年当たりのVTE再発率は、男性が11.9件(95%CI:9.6~14.4)、女性は8.9件(6.8~11.3)であり、10年時の累積再発率はそれぞれ41%(28~56)および29%(20~38)であった。
VTE再発率は、孤立性肺塞栓症患者と比較して、近位深部静脈血栓症患者(率比:1.4、95%CI:1.1~1.7)および肺塞栓症+深部静脈血栓症患者(1.5、1.1~1.9)で高かった。また、遠位深部静脈血栓症患者における中止後1年時の100人年当たりのVTE再発率は1.9件(95%CI:0.5~4.3)であった。VTE再発による死亡率は4%(2~6)だった。
著者は、「これらのデータは、非誘発性VTEの診療ガイドラインの策定に役立ち、患者に予後を説明する際の信頼度を高め、長期のマネジメントに関する意思決定の支援に有用と考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)