現在使用可能な治療に抵抗性の骨髄腫患者において、first-in-classのエクスポーチン1(XPO1)阻害薬selinexorと低用量デキサメタゾンの併用療法は、約4分の1の患者に客観的奏効をもたらすことが、米国・マウント・シナイ・アイカーン医科大学のAjai Chari氏らが行ったSTORM試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2019年8月22日号に掲載された。selinexorは、核外輸送複合体の選択的阻害薬であり、骨髄腫で過剰発現しているXPO1を阻害して腫瘍抑制蛋白の核内蓄積と活性化を促進し、核内因子κBを阻害するとともに、腫瘍蛋白メッセンジャーRNA翻訳を抑制する。selinexorは、現在の治療選択肢に抵抗性の骨髄腫患者において、新規治療薬となる可能性が示唆されている。
selinexor+デキサメタゾンを週2回経口投与
本研究は、欧米の60施設が参加した多施設共同非盲検第IIb相試験であり、2015年5月~2018年3月の期間に患者登録が行われた(Karyopharm Therapeuticsの助成による)。
対象は、骨髄腫に罹患し、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、レナリドミド、ポマリドミド、ダラツムマブ、アルキル化薬による治療歴があり、1種以上のプロテアソーム阻害薬、1種以上の免疫調節薬、ダラツムマブに抵抗性(3クラス抵抗性)を示す患者であった。
被験者は、selinexor(80mg)+デキサメタゾン(20mg)を週2回経口投与された。治療は、病勢進行、死亡、毒性による治療中止となるまで継続された。
主要評価項目は全奏効(部分奏効以上と定義)とし、独立評価委員会による判定が行われた。副次評価項目は、奏効期間、臨床的利益(最小奏効以上と定義)、無増悪生存期間、全生存期間とした。
selinexor+デキサメタゾンの全奏効率26%、CAR-T後再発例で部分奏効達成
122例を修正intention-to-treat集団、123例を安全性解析集団とした。年齢中央値は65.2歳(範囲40~86)、男性が58%で、前治療レジメン数中央値は7(3~18)であった。患者の53%が、高リスクの細胞遺伝学的異常を有していた。
selinexor+デキサメタゾン併用療法による部分奏効以上は、32例(26%、95%信頼区間[CI]:19~35)で観察された。内訳は、厳格な完全奏効が2例(2%)で達成され、最良部分奏効が6例(5%)、部分奏効が24例(20%)であった。CAR-T療法施行後に再発した2例はいずれも部分奏効を達成した。最小奏効は16例(13%)で、48例(39%)は安定であったのに対し、病勢進行または評価不能は26例(21%)であった。最小奏効以上は48例(39%)だった。
selinexor+デキサメタゾン併用療法で部分奏効以上に達するまでの期間中央値は4.1週、奏効期間中央値は4.4ヵ月であった。また、無増悪生存期間中央値は3.7ヵ月、全生存期間中央値は8.6ヵ月であった。部分奏効以上または最小奏効以上の患者の全生存期間中央値は15.6ヵ月だった。
selinexor+デキサメタゾン併用療法の頻度の高い非血液学的有害事象として、疲労(73%)、悪心(72%)、食欲不振(56%)が認められたが、Grade1または2が多かった。血液学的有害事象では、血小板減少(73%)の頻度が高かった(Grade3は25%、Grade4は33%)。血小板減少に起因するGrade3以上の出血イベントが、6例にみられた。67%に貧血が認められた。
著者は、「この試験結果は、いくつかの理由で注目に値する」とし、(1)腎機能低下、血小板減少、好中球減少がみられる患者も登録可、(2)対象は、中央値で10種の抗骨髄腫薬を含む中央値7レジメンという強力な前治療歴があり、(3)骨髄腫の進行が急激で、スクリーニングから初回治療までの12日間に疾病負荷が22%も増加した患者である点などを挙げている。
(医学ライター 菅野 守)