アテローム性動脈硬化が証明され、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)を発症した患者では、LDLコレステロール(LDL-C)の目標値を70mg/dL未満に設定すると、目標値90~110mg/dLに比べ、心血管イベントのリスクが低下することが、フランス国立保健医学研究所(INSERM)のPierre Amarenco氏らが行った「Treat Stroke to Target試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月18日号に掲載された。アテローム性動脈硬化に起因する虚血性脳卒中やTIAの患者では、スタチンを用いた強化脂質低下療法が推奨されている。一方、脳卒中発症後の心血管イベントの抑制におけるLDL-Cの目標値については、十分に検討されていないという。
LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群または90~110mg/dLとする群に割り付け
本研究は、フランスの61施設と韓国の16施設が参加した無作為化並行群間比較試験であり、2010年3月~2018年12月の期間に患者の割付が行われた(フランス連帯・保健省などの助成による)。
対象は、年齢18歳以上(韓国は20歳以上)、直近3ヵ月以内に虚血性脳卒中または15日以内にTIAを発症し、脳血管または冠動脈のアテローム性動脈硬化が証明されている患者であった。
被験者は、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群(低目標値群)または90~110mg/dLとする群(高目標値群)に無作為に割り付けられ、スタチンまたはエゼチミブ、あるいはこれら双方による治療を受けた。
主要エンドポイントは、主な心血管イベント(虚血性脳卒中、心筋梗塞、冠動脈または頸動脈の緊急血行再建術を要する新たな症状、心血管死)の複合とした。
本試験は、主要エンドポイントが385例で発生するまで継続する予定のevent-driven試験であるが、運営上の理由で2019年5月26日に早期中止となった。この時点でイベントを発生していた277例について解析が行われた。
LDL-C低目標値群と高目標値群の主要複合エンドポイント:8.5% vs.10.9%
虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作を発症した患者2,860例が登録され、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする低目標値群に1,430例(平均年齢66.4±11.3歳、男性67.9%)、高目標値群にも1,430例(67.0±11.1歳、67.3%)が割り付けられた。
試験期間中に、LDL-C低目標値群65.9%、高目標値群94.0%がスタチンのみの投与を受け、それぞれ33.8%、5.8%はエゼチミブ+スタチンの投与を受けていた。追跡期間中央値2.7年の時点で、低目標値群30.3%、高目標値群28.5%が治療を中止していた。
ベースラインの平均LDL-C値は両群とも135mg/dL(3.5mmol/L)であった。追跡期間中央値3.5年の時点で、平均LDL-C値は、低目標値群が65mg/dL(1.7mmol/L)、高目標値群は96mg/dL(2.5mmol/L)に低下していた。
主要複合エンドポイントの発生率は、LDL-C低目標値群が8.5%(121/1,430例)と、高目標値群の10.9%(156/1,430例)に比べ有意に低かった(補正後ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.61~0.98、p=0.04)。
主要複合エンドポイントのイベントの多くは非致死的脳梗塞または原因不明の脳卒中(低目標値群5.7%、高目標値群7.0%)であり、これに比べると、心血管死(1.2%、1.7%)、非致死的急性冠症候群(1.0%、1.6%)、緊急冠動脈血行再建術(0.3%、0.4%)、緊急頸動脈血行再建術(0.2%、0.2%)の頻度は低かった。
副次エンドポイント(心筋梗塞または緊急冠動脈血行再建術、脳梗塞または頸動脈/脳動脈血行再建術、脳梗塞またはTIA、血行再建術[頸動脈、冠動脈、末梢動脈]、死亡、脳梗塞または頭蓋内出血、頭蓋内出血、新規に診断された糖尿病)は、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。このうち、頭蓋内出血(1.3%、0.9%)と糖尿病(7.2%、5.7%)の発生率は低目標値群で高い傾向がみられたが、他の項目は低目標値群で低い傾向が認められた。
著者は、「韓国は患者登録の開始がフランスよりも遅く、追跡期間中央値はそれぞれ2.0年および5.3年と差があり、韓国人患者では有意な効果の検出力はない可能性がある」とし、「今回の試験結果の解釈では、試験の早期中止を考慮する必要がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)