米国のWHO必須医薬品関連の支出額は、2011年の119億ドルから2015年には258億ドルへと増加し、その多くを2つの高価なC型肝炎ウイルスの新規治療薬(ソホスブビル、レジパスビル/ソホスブビル配合剤)が占め、この期間に増加した支出総額の約22%は既存薬の単位当たりの費用の増加による可能性があることが、米国・ハーバード大学医学大学院のDavid G. Li氏らの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2019年7月17日号に掲載された。WHO必須医薬品モデルリストは、基本的な保健医療システムに必要最小限の医薬品を構成する重要な医薬品類と定義される。米国の後発医薬品市場は競争が激しいが、2008~15年に競争が不十分な状況となり、約400種の後発薬の価格が100倍以上に値上がりした。そのため、治療のアドヒアランスが低下し、患者アウトカムへの悪影響や、保健医療費の長期的な高騰を招く恐れがあるという。
2011~15年のメディケア・パートD受給者の後ろ向き費用分析
研究グループは、WHOが必須とする医薬品に関して、米国のメディケア受給者の支出増加の傾向、主要因、潜在的な修飾因子を明らかにする目的で、後ろ向きに費用分析を行った(米国国立衛生研究所 国立先進トランスレーショナル科学センター[NIH-NCATS]などの助成による)。
解析には、Medicare Part D Prescriber Public Use Fileのデータを用いた。このデータベースから、2011~15年に、WHO必須医薬品を処方されたメディケア・パートD(外来処方薬給付)の受給者における、後発薬および先発薬の年間の処方および支出の詳細な記録を抽出した。
主要アウトカムは、全体および受給者ごとのメディケア支出額、全体および受給者ごとの自己負担費用、累積受給者数、単位当たりの薬剤費などとした。すべての支出措置はインフレーション(物価上昇)に合わせて調整され、2015年の米ドル換算で報告された。
年間支出額が116%、自己負担費用が47%、処方総数が33%、それぞれ増加
2011~15年のWHO必須医薬品265品目のメディケア・パートD支出総額は、22億処方による872億ドル(684億ポンド、765億ユーロ)で、年間支出額は2011年の119億ドルから2015年には258億ドルへと116%増加した。
また、同一期間の必須医薬品の自己負担費用の支出総額は121億ドルであった。年間の自己負担費用は、20億ドルから29億ドルへと47%増加し、受給者ごとの年間自己負担費用は20.42ドルから21.17ドルへと4%増加した。処方総数は3億7,610万件から4億9,890万件へ33%増加し、累積受給者数は9,590万人から1億3,580万人へと42%増加した。
必須医薬品のうち、133品目(50%)の薬剤の単位当たりの費用(per unit cost)は、2011~15年の期間の平均インフレーション率よりも急速に上昇した。9品目(3%)の単位当たりの費用は、この期間のインフレーション率の100倍以上に持続的に上昇し、11品目(4%)は50~100倍に上昇した。
2011~15年の期間に、新薬導入および既存薬の単位当たりの費用と単位当たりの総用量(unit count)の変動により、支出総額が157億ドル増加した(支出額の低下が持続した薬剤は除外)。このうち22%(35億ドル)が既存の必須医薬品の単位当たりの費用の上昇、20%(32億ドル)は単位当たりの総用量の上昇によるもので、残りの91億ドルのうち83億5,000万ドル(92%)を、新規C型肝炎治療薬であるソホスブビルとレジパスビル/ソホスブビル配合剤が占めた。全体として、この期間における支出総額増加の約58%が、新薬の導入によるものだった。
著者は、「このような傾向によって、患者の必須医薬品へのアクセスが制限され、保健医療システムの費用が増加する可能性がある」とし、「高額な医薬品価格はアドヒアランスの低下を招く可能性がある。それゆえ政策立案者は、米国だけでなく世界中で、人々が必要とする必須医薬品にアクセスできるよう注意を払うべきだろう」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)