がんの診断を受けた喫煙者の禁煙治療において、継続的な禁煙カウンセリングと禁煙補助薬の無料提供による強化治療は、4週間の短期カウンセリングと禁煙補助薬に関する助言を行う標準治療と比較して、6ヵ月後の禁煙の達成割合が高いことが、米国・マサチューセッツ総合病院のElyse R. Park氏らが実施した「Smokefree Support研究」で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年10月13日号に掲載された。がん患者では、喫煙の継続が有害なアウトカムを引き起こす可能性があるが、米国の多くのがんセンターは、エビデンスに基づく禁煙治療をルーチンの治療に十分に導入できていないという。
米国の2つの包括的がんセンターが参加した無作為化試験
本研究は、米国の国立がん研究所(NCI)によって指定された2つの包括的がんセンター(マサチューセッツ総合病院/ダナファーバー/ハーバードがんセンターと、スローン・ケタリング記念がんセンター)が参加した非盲検無作為化試験であり、2013年11月~2017年7月の期間に患者登録が行われ、2018年2月にフォローアップのデータ収集が終了した(米国NCIとPfizerの助成による)。
対象は、30日以内に1本以上の喫煙をした成人で、英語またはスペイン語を話し、過去4回の受診時または3ヵ月以内に、乳房、消化器、泌尿生殖器、婦人科系、頭頸部、肺のがん、またはリンパ腫、悪性黒色腫と診断された患者であった。
被験者は、強化治療または標準治療を受ける群に無作為に割り付けられた。標準治療群は、電話によるカウンセリングと禁煙補助薬に関する助言を、週1回の割合で4回受けた。強化治療群は、電話によるカウンセリングを、週1回で計4回、2週に1回で計4回(2ヵ月)、さらに月1回で計3回受け、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た禁煙補助薬(バレニクリン、bupropion徐放性製剤、ニコチン置換療法)の無料提供を選択できた。禁煙補助薬を選択した参加者は、初回に4週分が提供され、さらに4週分を2回、合計12週分を受け取る選択ができ、これらの薬剤は使用しなくてもよいとされた。
主要アウトカムは、6ヵ月のフォローアップの時点での生化学的に確認された禁煙(7日間点有病率)であった。副次アウトカムには、3ヵ月後の時点での生化学的に確認された禁煙などが含まれた。
6ヵ月時の禁煙率:34.5% vs.21.5%、患者満足度も高い
303例(平均年齢58.3歳、170例[56.1%]が女性)が登録され、221例(78.1%)が試験を完遂した。強化治療群が153例、標準治療群は150例だった。
全体では、181例(59.7%)が喫煙関連腫瘍で、182例(60.1%)は早期病変であり、31例(10.2%)は重篤な精神疾患(うつ病、双極性障害、統合失調症)に罹患していた。1日喫煙本数中央値は10本(IQR 4~20)、喫煙年数中央値は42年(36~49)であり、214例(72.1%)は起床後30分以内に喫煙し、151例(51.0%)は自宅での喫煙が許されていた。
6ヵ月後の時点での生化学的に確認された禁煙率は、強化治療群が34.5%(51/148例)、標準治療群は21.5%(29/135例)であり、13.0%の差が認められ、強化治療群で有意に良好であった(オッズ比[OR]:1.92[95%信頼区間[CI]:1.13~3.27]、p<0.02)。また、3ヵ月後の時点での生化学的に確認された禁煙率は、強化治療群が31.1%(46/148例)、標準治療群は20.7%(28/135例)であり、強化治療群で良好だった(群間差:10.3%[95%CI:0.2~20.5]、OR:1.72[95%CI:1.00~2.96]、p=0.048)。
修了したカウンセリングの回数中央値は、強化治療群が8回(IQR:4~11)、標準治療群は4回(3~4)であった。全体のカウンセリングの平均時間は、初回が44.61(SD 15.47)分で、2回目以降は19.9(8.1)分だった。また、6ヵ月時までに禁煙補助薬を使用した患者の割合は、強化治療群が77.0%(97/126例)と、標準治療群の59.1%(68/115例)に比べ高かった(群間差:17.9%[95%CI:6.3~29.5]、OR:2.31[95%CI:1.32~4.04]、p=0.003)。
多変量解析では、6ヵ月後の時点での生化学的に確認された禁煙と有意な関連が認められた因子として、強化治療(p=0.04)、臨床的に意義のある禁煙意欲の増加(p=0.03)、自己評価による喫煙の誘惑への抵抗力の強さ(p=0.003)、自宅での喫煙ルール確立の進展度の高さ(p=0.03)、不安の減少度の高さ(p=0.04)が挙げられた。また、6ヵ月時に、「このプログラムは、私にとって必要なもののほとんど、またはすべてを満たした」と答えた患者の割合は、強化治療群が85.0%であり、標準治療群の59.3%に比べ満足度が高かった(群間差:25.5%[95%CI:16.0~35.3]、OR:1.66[95%CI:1.24~2.24]、p=0.001)。
最も頻度の高い有害事象は、悪心(強化治療群13例、標準治療群6例)、皮疹(4例、1例)、しゃっくり(4例、1例)、口腔刺激(4例、0例)、睡眠困難(3例、2例)、鮮明な夢(3例、2例)であった。
著者は、「これらの知見の一般化可能性は明確ではなく、さらなる研究を要する」としている。
(医学ライター 菅野 守)