降圧薬による高血圧治療は、転倒との関連はないものの、軽度の有害事象として高カリウム血症および低血圧と関連し、重度の有害事象として急性腎障害および失神との関連が認められることが、英国・オックスフォード大学のAli Albasri氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月10日号に掲載された。降圧治療の有効性を評価した無作為化対照比較試験のメタ解析は多いが、潜在的な有害性を検討したメタ解析はほとんどない。また、既存のメタ解析は、降圧治療とすべての有害事象の関連に重点を置き、特定の有害事象との関連は明らかにされていないという。
降圧治療と特定の有害事象の関連をメタ解析で評価
研究グループは、降圧治療と特定の有害事象との関連を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を実施した(英国Wellcome Trustなどの助成による)。
成人(年齢18歳以上)で、降圧薬とプラセボまたは無投与、降圧薬数が多い群と少ない群、降圧目標値の高値と低値を比較した無作為化対照比較試験を対象とした。小規模な初期段階の試験を回避するために、試験はフォローアップ期間が650人年以上であることが求められた。
2020年4月14日の時点で、4つの学術データベース(Embase、Medline、CENTRAL、Science Citation Index)に登録された文献を検索した。
主要アウトカムは、試験のフォローアップ期間中の転倒とした。副次アウトカムは、急性腎障害、骨折、痛風、高カリウム血症、低カリウム血症、低血圧、失神であった。また、死亡や主要心血管イベントと関連する追加アウトカムのデータを抽出した。
バイアスのリスクはCochrane risk of bias toolで評価した。変量効果メタ解析で、試験の異質性(τ
2)を考慮してすべての試験の率比(RR)、オッズ比(OR)、ハザード比(HR)を統合した。
死亡、心血管死、脳卒中を抑制、心筋梗塞との関連は不明確
58件の無作為化対照比較試験(28万638例、フォローアップ期間中央値:3年[IQR:2~4])に関する63本の論文が解析に含まれた。多くの試験(40件[69%])はバイアスのリスクが低かった。
転倒のデータを報告したのは7件の試験(2万9,481例、1,790イベント)で、降圧治療との関連を示すエビデンスは認められず(要約RR:1.05、95%信頼区間[CI]:0.89~1.24)、この関連に関する試験間の異質性はほとんどなかった(τ
2=0.009、I
2=31.5%、p=0.372)。
一方、降圧薬は、急性腎障害(要約RR:1.18、95%CI:1.01~1.39、τ
2=0.037、15試験)、高カリウム血症(1.89、1.56~2.30、τ
2=0.122、26試験)、低血圧(1.97、1.67~2.32、τ
2=0.132、35試験)、失神(1.28、1.03~1.59、τ
2=0.050、16試験)との関連が認められた。
降圧治療と骨折(要約RR:0.93、95%CI:0.58~1.48、τ
2=0.062、I
2=53.8%、5試験)、および痛風(1.54、0.63~3.75、τ
2=1.612、I
2=94.3%、12試験)との関連のエビデンスは明確ではなく、CIの幅の広さは試験の異質性が大きいことをある程度反映すると考えられた。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系拮抗薬に限定すると、急性腎障害と高カリウム血症のイベントを評価した試験間の異質性は低くなった。また、個々の試験で投与中止の原因となった有害事象に焦点を当てた感度分析では、結果の頑健性が示された。
さらに、降圧治療は、全死因死亡(HR:0.93、95%CI:0.88~0.98、τ
2=0.008、I
2=50.4%、32試験)、心血管死(0.92、0.86~0.99、τ
2=0.011、I
2=54.6%、21試験)、脳卒中(0.84、0.76~0.93、τ
2=0.013、I
2=44.8%、17試験)のリスク低減と関連したが、心筋梗塞(0.94、0.85~1.03、τ
2=0.013、I
2=40.7%、19試験)との関連は明確ではなかった。
著者は、「これらのデータは、降圧治療の開始や継続について医師と患者が協働意思決定を行う際に、とくに有害事象の既往歴や腎機能低下により有害性のリスクが高い患者にとって、有益な情報となるだろう」としている。
(医学ライター 菅野 守)