アフリカでは、南アフリカ共和国を除き、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染範囲や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響についてほとんど知られていない。米国・ボストン大学公衆衛生大学院のLawrence Mwananyanda氏らは、ザンビア共和国のルサカ市でCOVID-19の死亡への影響についてサーベイランス研究を行った。その結果、予想に反して、同市の約3.5ヵ月間の死者の約2割がCOVID-19で、COVID-19が確認された死亡例の年齢中央値は48歳、66%が20~59歳であることなどが明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2021年2月17日号に掲載された。アフリカは、COVID-19のデータがないため、COVID-19はアフリカを飛び越えて伝播し、影響はほとんどないとの言説が広く醸成されている。これは、「エビデンスはない」が、「非存在のエビデンス」として広範な誤解を招く好例とも考えられている。
アフリカの都市部での系統的死後サーベイランス研究
研究グループは、アフリカの都市部におけるCOVID-19の死亡への影響を直接的に評価する目的で、プロスペクティブな系統的死後サーベイランス研究を行った(Bill & Melinda Gates財団の助成による)。
対象は、ザンビアで最大規模の3次病院であるルサカ市のUniversity Teaching Hospital(UTH、他施設からの紹介を含め市の80%以上の死亡を登録)の死体安置所で、死後48時間以内に登録された全年齢層の死亡例であった。
死後の鼻咽頭拭い液を用いて、定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法でSARS-CoV-2の検査を行った。死亡例は、COVID-19の状況、死亡場所(施設[UTH] vs.市中[UTH以外でのすべての死亡で、他施設からUTHへの紹介を含む])、年齢、性別、リスク因子としての基礎疾患で層別化された。
2020年6月15日~9月30日の期間に死亡した372例が試験に登録された。PCR検査の結果は364例(97.8%)で得られ、施設が96例(26.4%)、市中が268例(73.6%)であった。
患者がまれではなく、検査が少ないから過少報告に
SARS-CoV-2は、PCR法の推奨サイクル閾値(CT値)である<40サイクルによる測定では15.9%(58/364例)で検出された。CT値を40~45サイクルに拡張すると、さらに12例でSARS-CoV-2が同定され、死亡例の陽性率は19.2%(70/364例)となった。このうち69%(48/70例)が男性だった。
SARS-CoV-2陽性死亡例の死亡時年齢中央値は48歳(IQR:36~72)で、このうち市中死の患者は47歳(34~72)、施設死の患者は55歳(38~73)だった。COVID-19が確認された死亡例の割合は年齢が高くなるに従って上昇したが、76%(53例)は60歳未満であり、このうち46例(66%)は20~59歳だった。
COVID-19が確認された死亡例の多くは市中死(73%[51/70例])であり、このうち死亡前にSARS-CoV-2の検査を受けた患者はいなかった。施設死(27%[19/70例])では、死亡前にSARS-CoV-2検査を受けていたのは6例のみだった。
COVID-19が確認された死亡例の症状に関するデータは70例中52例で得られ、このうち44例(63%)でCOVID-19に典型的な症状(咳、発熱、息切れ)が認められたが、死亡前にSARS-CoV-2検査を受けていたのは5例のみだった。
19歳未満では、7例(10%)でCOVID-19が確認され、このうち死亡前に検査を受けたのは1例のみであった。年齢別の内訳は、1歳未満が3例で、3歳、13歳、16歳が1例ずつ(いずれも市中死)であり、1歳の1例のみが施設死だった。
COVID-19死亡例で最も頻度の高い合併症は、結核(22例[31%])、高血圧(19例[27%])、HIV/AIDS(16例[23%])、アルコール乱用(12例[17%])、糖尿病(9例[13%])であった。
著者は、「COVID-19が確認された死亡例のほとんどは、検査能力のない市中死であったが、施設死であっても、COVID-19の典型的な症状を呈しているにもかかわらず、死亡前に検査を受けた患者はほとんどいなかった。したがって、COVID-19患者がまれだったためではなく、検査がまれにしか行われなかったことが原因で、COVID-19の報告が過少であったと考えられる」とまとめ、「これらのデータが一般化可能であるとすると、アフリカにおけるCOVID-19の影響はかなり過小評価されていることになる」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)