英国では、1998~2018年の20年間に、食物によって誘発されたアナフィラキシーによる入院が3倍以上に増加したが、死亡率は低下しており、就学児童で最も頻度の高い致死的なアナフィラキシーの単一の誘因は牛乳であることが、同国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAlessia Baseggio Conrado氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月17日号で報告された。アナフィラキシーは全身性の重篤な過敏反応で、通常、急速に発症し、死に至る可能性もある。食物アナフィラキシーによる入院は世界的に増加しており、イングランドとウェールズでは1998~2012年の期間に倍増したが、致死的アナフィラキシーの発生率はこの間安定していたという。
英国の20年間の経時的な傾向を調査
研究グループは、英国における過去20年間の食物アナフィラキシーによる入院および死亡の経時的な傾向を明らかにする目的で、全国的な調査を行った(英国医学研究協議会[MRC]などの助成による)。
解析には、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドにおけるアナフィラキシーによる入院と死亡に関連するデータと、アドレナリン(エピネフリン)自己注射器の処方データを用いた。
アドレナリン自己注射器の処方率は336%上昇
1998~2018年の期間に10万1,891人がアナフィラキシーで入院した。これらの入院のうち3万700人(30.1%)が、食物が誘因のアナフィラキシーであった。食物アナフィラキシーによる入院は、1998年の年間10万人当たり1.23人から、2018年には4.04人へと増加し、年間増加率は5.7%(95%信頼区間[CI]:5.5~5.9、p<0.001)であった。
入院率が最も高かった年齢層は15歳未満であり、1998年の年間10万人当たり2.1人から、2018年には9.2人へと増加しており、年間増加率は6.6%(95%CI:6.3~7.0)であった。他の年齢層の年間増加率は、15~59歳が5.9%(5.6~6.2)、60歳以上は2.1%(1.8~3.1)だった。
1998~2018年の期間に、食物を誘因とするアナフィラキシーが原因の可能性がある致死的イベントによる死亡は152件認められた。致死的食物アナフィラキシーは、1998年の0.70%から、確定例は0.19%へと減少し(率比:0.931、95%CI:0.904~0.959、p<0.001)、疑い例は0.30%へと低下した(0.970、0.945~0.996、p=0.024)。
1992~98年の35件を含む合計187件の死亡のうち、少なくとも86件(46%)は、ピーナッツまたはナッツ類(tree nut)が誘因の死亡であった。また、就学児童(16歳未満)の66件の死亡のうち、17件(26%)は牛乳によるものであった(成人は5%)。
同時期の20年間に、アドレナリン自己注射器の処方率は336%上昇した(率比:1.113、95%CI:1.112~1.113、年間増加率:11%)。
著者は、「アレルギーを持つ人々に牛乳がもたらす固有のリスクを浮き彫りにし、食品製造企業の意識を高めるには、より多くの教育を要する」とし、「若年成人における重症アナフィラキシーに対する年齢関連の脆弱性のエビデンスを評価し、その結果として食物アレルギー患者のリスクを層別化し、致死的な転帰のリスクを低減するわれわれの能力を向上させるための研究が必要である」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)