院外心停止の成人患者において、静脈内または骨髄内のカルシウム投与は生理食塩水投与と比較して、自己心拍の持続的再開を改善せず、30日生存率や良好な神経学的アウトカムの達成割合がいずれも有意差はないものの不良な傾向にあることが、デンマーク・Prehospital Emergency Medical ServicesのMikael Fink Vallentin氏らの検討(Calcium for Out-of-Hospital Cardiac Arrest trial)で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2021年11月30日号で報告された。
デンマークの無作為化プラセボ対照比較試験
研究グループは、院外心停止患者の自己心拍再開におけるカルシウム投与の有用性の評価を目的に、医師主導の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行った(Novo Nordic Foundationなどの助成を受けた)。
この研究は、2020年1月20日~2021年4月15日の期間に、デンマークの行政区の1つであるCentral Denmark Region(人口約130万人)で実施された。対象は、年齢18歳以上、院外で心停止となり、心停止中に少なくとも1回のエピネフリンの投与を受けた患者であり、外傷性心停止や妊婦などは除外された。
被験者は、塩化カルシウム5mmolの静脈内または骨髄内投与を最多で2回行う群、または同様に生理食塩水(塩化ナトリウム9mg/mL、プラセボ)の投与を行う群に無作為に割り付けられた。試験薬の1回目の投与は、エピネフリンの初回投与直後に行われた。
主要アウトカムは持続的な自己心拍再開(自己心拍が得られ、それ以上の胸骨圧迫が必要でない時間が20分以上持続した場合)とされた。主な副次アウトカムは、30日の時点での生存および良好な神経学的アウトカム(修正Rankin尺度スコアが0~3点)を伴う生存などであった。
383例の非盲検データの中間解析の結果により、2021年4月15日、独立データ安全性監視委員会はカルシウム群の有害性の徴候に基づき試験の早期中止を勧告し、これを受けて運営委員会は即座に試験を中止した。
主要アウトカム:19% vs.27%、高カルシウム血症も高頻度
391例が解析に含まれ、193例がカルシウム群、198例が生理食塩水群であった。全体の平均年齢は68(SD 14)歳で、114例(29%)が女性だった。発生場所は82%が自宅で、75%が電気ショック非適応リズムの患者であった。
心停止から試験薬投与までの期間中央値は18分(IQR:14~23)で、60%の患者が骨髄内投与を受け、73%は試験薬の投与を2回受けた。フォローアップが不能の患者はなかった。
持続的な自己心拍再開の達成割合は、カルシウム群が19%(37例)と、生理食塩水群の27%(53例)に比べ低かったが、両群間に有意な差は認められなかった(リスク比:0.72[95%信頼区間[CI]:0.49~1.03]、リスク差:-7.6%[95%CI:-16~0.8]、p=0.09)。
30日の時点での生存率は、カルシウム群は5.2%(10例)であり、生理食塩水群の9.1%(18例)より低かったものの、有意差はみられなかった(リスク比:0.57[95%CI:0.27~1.18]、リスク差:-3.9%[95%CI:-9.4~1.3]、p=0.17)。
また、30日時の良好な神経学的アウトカムの達成割合は、カルシウム群が3.6%(7例)、生理食塩水群は7.6%(15例)であった(リスク比:0.48[95%CI:0.20~1.12]、リスク差:-4.0%[95%CI:-8.9~0.7]、p=0.12)。
カルシウム値が測定され、自己心拍再開が達成された患者のうち、カルシウム群では74%(26例)、生理食塩水群では2%(1例)が高カルシウム血症を発現した。
著者は、「これらの結果は、院外心停止の成人患者に対する心停止中のカルシウムの投与を支持しない」とまとめ、「早期に中止された試験は、効果を過大評価する傾向があるとされる。また、主要アウトカムの95%CIの幅の広さを考慮すると、有害性を示唆する点推定値は偶然の結果である可能性もある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)