単一施設のデータに基づいて構築された予測モデルを用いて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者のうち低リスク例を48時間以内に同定して早期退院を促すことで、データの共有なしに他施設でも良好な病床日数の削減効果が得られる可能性があることが、米国・ミシガン大学のFahad Kamran氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年2月17日号で報告された。
臨床的な悪化の予測モデルを開発、妥当性を検証
研究グループは、電子健康記録データを用いて、医療施設間で共有できるCOVID-19患者の臨床的な悪化を正確に予測する簡便で移転可能な機械学習モデルを開発し、その妥当性を検証する目的で後ろ向きコホート研究を実施した(米国国立科学財団[NSF]などの助成を受けた)。
対象は、呼吸困難またはCOVID-19で入院した年齢18歳以上の患者であった。モデルの訓練には2015年1月~2019年12月に米国の1病院(ミシガン大学Michigan Medicine病院)に入院した患者のデータが用いられ、内的妥当性は2020年3月~2021年2月に酸素補給を要する状態で同病院に入院し、COVID-19と診断された患者のデータで検証された。外的妥当性の検証は、2020年3月~2021年2月に同病院以外の12施設に酸素補給を要する状態で入院し、COVID-19と診断された患者を対象に実施された。
モデル開発コホートでは、入院から5日以内の臨床的悪化の主要複合アウトカム(院内死亡または重症の病態を示す3つの治療[機械的換気、加温高流量鼻カニュラ、昇圧薬の静脈内投与])を予測するために、モデルの訓練が行われた。モデルは、電子健康記録の2,686個の変数(個々の患者の特徴、検査結果、看護記録データなど)から選択された9つの個々の患者の臨床的な特性変数に基づいて構築された。
内的妥当性と外的妥当性の検証の性能は、受信者操作特性曲線下面積(AUROC)と、予想較正誤差(ECE、予測リスクと実際のリスクの差)で評価された。
モデルによって同定された低リスク例を早期に退院させた場合に、病院が患者1例あたり何日の病床日数を削減できるかを計算することで、潜在的な病床削減日数が推定された。
主要エンドポイントの発生は5%以下
モデルの妥当性の検証には、13施設における9,291件(内的妥当性の検証956件、外的妥当性の検証8,335件)のCOVID-19関連入院のデータが用いられ、このうち1,510件(16.3%)が主要アウトカムに関連していた。
モデルを内的妥当性コホートに適用すると、AUROCが0.80(95%信頼区間[CI]:0.77~0.84)、ECEは0.01(0.00~0.02)と良好な性能が達成された。モデルの外的妥当性の性能もほぼ同様で、各施設のAUROCの範囲は0.77~0.84(平均0.81)で、ECEの範囲は0.02~0.04であった。
1年(3ヵ月単位の4期)を通じた各施設のAUROCは、第1四半期から第2四半期にAUROCが大きく低下した2施設を除き、0.73~0.83の範囲であった。また、性別、年齢別、人種別、民族別の全サブグループのAUROCの範囲は0.78~0.84だった。
このモデルは、内的妥当性と外的妥当性のコホートの双方で、48時間の観察後に低リスク例を正確に同定することができた。モデルは、COVID-19で入院した低リスク例のうち、最良の施設で41.6%を、より緊急度の低い治療へ正確にトリアージし、この施設では早期退院によって患者1例当たり5.2日の病床日数が削減される可能性が示された。また、他の施設では、このモデルが入院患者のうち低リスク例を正確にトリアージする割合は低かったが、削減される可能性のある病床日数は最大で7.8日であった。
このモデルは、少なくとも95%の陰性的中率を維持しつつ、この性能レベルを達成した。すなわち、低リスクと判定された入院患者のうち、主要エンドポイントを満たしたのは5%以下だった。
著者は、「この外的妥当性の検証方法は、さまざまな患者におけるモデルの現実的で適切な評価の可能性を保持しつつ、データ共有の必要性を排除することで、患者の個人情報を取り巻く潜在的な懸念を軽減する。したがって、この研究は、単一施設における患者の悪化を予測するモデルの開発に資する可能性があり、データ共有への同意なしに外的妥当性の検証や多施設共同研究を行うことを可能にする」としている。
(医学ライター 菅野 守)