多剤耐性ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染症の治療において、画期的新薬(first-in-class)である長時間作用型HIV-1カプシド機能阻害薬lenacapavirはプラセボと比較して、ウイルス量のベースラインからの減少幅が格段に大きく、重篤な有害事象や有害事象による投与中止は認められないため、有望な治療選択肢となる可能性があることが、米国・ニューヨーク・プレスビテリアン・クイーンズ病院のSorana Segal-Maurer氏らが実施した「CAPELLA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年5月12日号に掲載された。
11ヵ国42施設の進行中の第III相試験
CAPELLAは進行中の第III相試験で、日本を含む11ヵ国の42施設が参加し、2019年11月~2021年1月の期間に参加者の登録が行われた(米国Gilead Sciencesの助成を受けた)。
対象は、年齢12歳以上、スクリーニング前の少なくとも8週間にわたり薬物療法の失敗(HIV-1 RNA量≧400コピー/mL)が継続し、抗レトロウイルス薬の4つの主要クラス(ヌクレオシド系逆転写阻害薬、非ヌクレオシド系逆転写阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、インテグラーゼ阻害薬)のうち少なくとも3剤の投与を受け、このうち2剤以上に耐性となった患者とされた。
被験者は、スクリーニング時からコホート選択の受診時までの血漿中HIV-1 RNA量の変化によって、次の2つのコホートに分けられた。
コホート1(無作為化コホート)では、この期間のウイルス量の減少が0.5 log
10コピー/mL未満(治療に反応せずウイルス血症が持続)でコホート選択受診時のHIV-1 RNA量が400コピー/mL以上の患者が、失敗した基礎治療に加え、lenacapavir(1日と2日目に600mg、8日目に300mg)を14日間で経口投与する群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた(機能的単剤療法期)。15日以降は、維持期(52週まで)として、最適化された基礎治療とともに、lenacapavir群はlenacapavirの皮下投与が6ヵ月に1回施行され、プラセボ群はlenacapavirの経口投与ののち、皮下投与が行われた。
コホート2(非無作為化コホート)では、同期間のウイルス量の減少が0.5 log
10コピー/mL以上(ウイルス血症が軽減)またはコホート選択受診時のHIV-1 RNA量が400コピー/mL未満、あるいはこれら双方の患者が、非盲検下に、全例が最適化された基礎治療とともに、1~14日にlenacapavirの経口投与を受け、その後は同薬の皮下投与が6ヵ月に1回行われた。
主要エンドポイントは、コホート1における15日までにウイルス量が0.5 log
10コピー/mL以上減少した患者の割合で、主な副次的エンドポイントは26週の時点でウイルス量が50コピー/mL未満の患者の割合とされた。
主要エンドポイント:88% vs.17%
72例(年齢中央値52歳[範囲:23~78]、女性25%、ウイルス量中央値4.5 log
10コピー/mL[範囲:1.3~5.7])が登録され、2つのコホートに36例ずつが割り付けられ、コホート1ではlenacapavir群が24例、プラセボ群は12例であった。全体の47%が、抗レトロウイルス薬の4つの主要クラスのすべてに耐性だった。
コホート1の機能的単剤療法期に、ウイルス量が0.5 log
10コピー/mL以上減少した患者の割合は、lenacapavir群が88%(21/24例)と、プラセボ群の17%(2/12例)に比べ有意に良好であった(絶対群間差:71ポイント、95%信頼区間[CI]:35~90、p<0.001)。また、15日時のウイルス量の、ベースラインからの変化の最小二乗平均(±SD)は、lenacapavir群が-2.10±0.15 log
10コピー/mLであったのに対し、プラセボ群は0.07±0.22 log
10コピー/mLと、大きな差が認められた(最小二乗平均群間差:-2.17、95%CI:-2.74~-1.59、p<0.001)。
26週時にウイルス量が50コピー/mL未満の患者の割合は、コホート1が81%(29/36例)、コホート2は83%(30/36例)であり、この間にCD4陽性細胞数が、最小二乗平均でそれぞれ75/mm
3および104/mm
3増加した。この割合は、両コホートを合わせて、女性(女性94%、男性78%)、50歳未満(50歳未満89%、50歳以上77%)、ベースラインのウイルス量が10万コピー/mL以下の患者(10万コピー/mL以下86%、10万コピー/mL超64%)で高かった。
維持期に、感受性の低下を伴うlenacapavir関連のカプシドの配列置換が8例(コホート1:4例[lenacapavir群1例、プラセボ群3例]、コホート2:4例)で発現し、このうち6例はM66I置換であった。また、lenacapavir耐性となった8例中4例は、lenacapavir投与中にHIV-1 RNA量が再び50コピー/mL未満に減少し、再び減少しなかった4例のうち2例はウイルス血症が持続し、1例は10週時に死亡し、1例は4週時に投与中止となった。
コホート1の機能的単剤療法期に、少なくとも1件の有害事象が発現した患者は、lenacapavir群が38%、プラセボ群は25%であった。この期間に、両群とも重篤な有害事象やGrade3以上の有害事象は観察されず、有害事象による投与中止も認められなかった。両コホートの統合解析では、7例で重篤な有害事象がみられたが、いずれもlenacapavirとの関連は確認されなかった。
lenacapavir関連の注射部位反応は、全体の45例(62%)で認められ、このうち腫脹が31%、疼痛が31%、紅斑が25%、結節形成が24%であった。これ以外の有害事象で頻度が高かったのは、悪心(12%)、便秘(11%)、下痢(11%)、腹部膨満(10%)だった。
著者は、「この試験は症例数が少なく、追跡期間も短いという限界があるが、多剤耐性HIV-1感染症では新たな治療選択肢が求められていることから、長期データの評価を行うために本試験は現在も進行中である」としており、未治療例を対象とする試験や高リスク例に対する予防治療の試験も進められているという。
(医学ライター 菅野 守)