進行膵がん、TCR-T細胞療法が転移巣に著効した1例/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2022/06/10

 

 米国・Earle A. Chiles Research InstituteのRom Leidner氏らが、KRAS G12Dを標的としたT細胞受容体(TCR)遺伝子治療により腫瘍縮小が得られた転移のある進行膵がん患者について報告した。膵管腺がんは現在の免疫療法に抵抗性を示し、依然として致死率が最も高いという。研究グループは以前、転移のある大腸がん患者の腫瘍浸潤リンパ球からKRAS G12Dを標的としたHLA-C08:02拘束性TCRを同定し、自家KRAS G12D反応性腫瘍浸潤リンパ球を用いた治療により内臓転移の客観的縮小が観察されたことを報告し(N Engl J Med.2016;375:2255-2262.)、この腫瘍浸潤リンパ球由来のKRAS G12D反応性TCRが、HLA-C08:02とKRAS G12Dを発現している腫瘍を有する患者の、TCR遺伝子治療として使用できる可能性が示唆されていた。NEJM誌2022年6月2日号掲載の報告。

KRAS G12Dを標的としたHLA-C08:02拘束性TCRを発現するT細胞を移植

 患者は71歳女性で、67歳時に膵頭部腺がんと診断され、2018年に術前補助化学療法(FOLFIRINOX療法)、幽門輪温存膵頭十二指腸切除、術後FOLFIRINOX療法、カペシタビン併用放射線療法を実施した。

 2019年まで再発なく経過したが肺転移が確認され、無症状で両肺に転移が進行したことから、2020年にピッツバーグ大学で実施された腫瘍浸潤リンパ球療法の臨床試験に参加するも、6ヵ月以内に肺転移の拡大が観察された。分子ゲノム研究の結果、PD-L1発現率(TPS)1%未満、KRAS G12D変異、マイクロサテライト安定、HLA-C08:02発現などが確認されたことから、2021年6月、KRAS G12Dを標的とする2種類の同種HLA-C08:02拘束性TCRを発現するよう別々のバッチでレトロウイルスによって形質導入した自家末梢血T細胞による治療を行った。

肺転移巣は1ヵ月後で62%、6ヵ月後で72%縮小

 細胞注入の5日前にトシリズマブ600mg単回静注、5日前と4日前にシクロフォスファミド30mg/kg/日静注による前処置を行った後、16.2×109個の自家T細胞を単回注入し(0日目)、細胞注入の18時間後に高用量IL-2(60万IU/mL、8時間毎静注)の投与を開始(予定していた6回の投与のうち、6回目は低血圧のため投与は行われず)。11日目に退院し、外来で骨髄増殖因子と血液製剤の投与を受けた。

 細胞注入1ヵ月後の最初の追跡調査において、CTにより肺転移巣が62%縮小していることが観察され、RECIST v1.1に基づく部分奏効が得られた。この効果は最新の追跡調査時の細胞注入6ヵ月後も持続しており、RECIST v1.1に基づく腫瘍縮小は72%であった。

 また、注入されたTCR改変T細胞は、注入の約1ヵ月後で循環血中の全T細胞の約13%、3ヵ月後で3.3%、6ヵ月後でも2.4%を占めていた。

(医学ライター 吉尾 幸恵)

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コメンテーター : 宮嶋 哲( みやじま あきら ) 氏

東海大学医学部外科学系腎泌尿器科学 主任教授