痛風患者では、心血管イベントの経験者は非経験者と比較して、イベント発生前の0~120日以内に痛風発作を発症する確率が有意に高く、痛風発作後の心血管イベントの一過性の増加と関連する可能性があることが、英国・ノッティンガム大学のEdoardo Cipolletta氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2022年8月2日号に掲載された。
イングランドの後ろ向き観察研究
研究グループは、痛風発作が痛風患者における心血管イベントのリスクを一過性で増加させるとの仮説の検証を目的に、後ろ向き観察研究を行った(ノッティンガム大学などの助成を受けた)。
解析には、1997年1月1日~2020年12月31日の期間にイングランドのClinical Practice Research Datalinkに登録された電子健康記録(EHR)のデータが用いられた。
観察期間中に痛風を発症した患者を対象に多変量コホート内症例対照研究(nested case-control study)を行い、痛風発作と心血管イベントを有する患者において、季節と年齢を補正した自己対照ケースシリーズ(self-controlled case series)による解析を実施した。
痛風発作は、次の3つの要件のうち1つ以上を満たす場合と定義された。(1)総合診療医の記録で痛風発作の診断コードの記載、(2)退院時の診断で、痛風による入院の記述、(3)プライマリケア施設で痛風と診断され、その日に非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはグルココルチコイド、コルヒチンを処方されている。
主要アウトカムは、心血管イベント(急性心筋梗塞、脳卒中)とされた。
痛風発作後0~60日に、心血管イベントリスクが最も高い
新規に痛風と診断された6万2,574例(平均年齢76.5歳、男性69.3%)がコホート内症例対照研究に含まれた。このうち1万475例が心血管イベントを発症し、残りの5万2,099例(マッチさせた対照)は心血管イベントを伴わない痛風患者であった。
心血管イベントを発症した痛風患者は、これを伴わない痛風患者に比べ、痛風発作の確率が、過去0~60日以内(204/1万475例[2.0%]vs.743/5万2,099例[1.4%]、補正後オッズ比[OR]:1.93、95%信頼区間[CI]:1.57~2.38)、過去61~120日以内(170/1万475例[1.6%]vs.628/5万2,099例[1.2%]、1.57、1.26~1.96)の双方で有意に高かった。
これに対し、過去121~180日以内の痛風発作の確率は、心血管イベント発症痛風患者と非発症痛風患者で有意な差はなかった(148例[1.4%]vs.662例[1.3%]、補正後OR:1.06、95%CI:0.84~1.34)。
一方、自己対照ケースシリーズ(1,421例)では、1,000人日当たりの心血管イベントの割合は、痛風発作前の150日以内または発作後181~540日が1.32(95%CI:1.23~1.41)であったのに比べ、痛風発作後0~60日は2.49(2.16~2.82)、61~120日は2.16(1.85~2.47)、121~180日は1.70(1.42~1.98)と、高い値を示した。
また、痛風発作前の150日以内または発作後181~540日と比較して、痛風発作後0~60日以内における1,000人日当たりの心血管イベントの罹患率の差は1.17(95%CI:0.83~1.52)で、補正後罹患率比(IRR)は1.89(95%CI:1.54~2.30)であり、痛風発作後61~120日では、それぞれ0.84(95%CI:0.52~1.17)/1,000人日および1.64(95%CI:1.45~1.86)、121~180日では0.38(0.09~0.67)/1,000人日および1.29(1.02~1.64)であった。
著者は、「痛風は、NLRP-3インフラマソームの活性化に起因する好中球が豊富な急性炎症で特徴づけられる。好中球性炎症は、動脈硬化性プラークの不安定性や破綻をもたらす。プラーク内の活性化した炎症細胞は、メタロプロテイナーゼやペプチダーゼなどの宿主応答タンパク質のアップレギュレーションを引き起こし、酸化ストレスを促進するが、これらはすべてプラークの不安定化に寄与する。これは、心血管イベントと直近の痛風発作との関連の説明となる可能性がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)