日本の消化器外科医による手術アウトカムの補正後リスク差について、執刀医の男女差は認められない。日本バプテスト病院外科副部長・京都大学大学院医学研究科の大越 香江氏らが、日本の手術症例データベースNational Clinical Database(NCD)等を基に後ろ向きコホート試験を行い、幽門側胃切除術、胃全摘術、直腸低位前方切除術の短期アウトカムを調べた結果を報告した。女性消化器外科医は男性消化器外科医と比べて、医籍登録後の年数が短く、リスクがより高い患者を引き受け、腹腔鏡手術の回数は少ないという不利な条件ながらも、手術死亡率やClavien-Dindo分類≧3合併症率について有意差はなかったという。結果を踏まえて著者は「日本では、女性医師が手術トレーニングを受けるために、より多くの機会が保証されている」と述べ、「女性外科医のためのより適切で効果的な手術トレーニングを整備すれば、手術アウトカムはさらに改善する可能性がある」とまとめている。BMJ誌2022年9月28日号掲載の報告。
幽門側胃切除術、胃全摘術、直腸低位前方切除術について検証
研究グループは、NCD(2013~17年、日本の手術データの95%以上が包含されている)と日本消化器外科学会のデータを基に後ろ向きコホート試験を行い、幽門側胃切除術、胃全摘術、直腸低位前方切除術について、短期アウトカムと執刀医男女差の有無を検証した。
主要アウトカムは、手術死亡、手術死亡・術後合併症、膵液漏(幽門側胃切除術、胃全摘術)、縫合不全(直腸低位前方切除術)だった。手術関連死亡および周術期合併症と執刀医性差の関連について、患者、執刀医、病院特性を補正し多変量ロジスティック回帰モデルを用いて分析した。
死亡・Grade3以上の合併症リスクは男女で同等
解析に含まれたのは、14万9,193件の幽門側胃切除術(男性執刀医担当14万971件[94.5%]、女性執刀医担当8,222件[5.5%])、6万3,417件の胃全摘術(5万9,915件[94.5%]、3,502件[5.5%])、8万1,593件の直腸低位前方切除術(7万7,864件[95.4%]、3,729件[4.6%])だった。
平均すると、女性外科医は男性外科医と比べて医籍登録後の年数が短く、リスク高い患者を執刀し、腹腔鏡手術の回数が少なかった。
一方で、手術死亡の補正後リスクについて執刀医の男女間で有意差はなく、男性執刀医に対する女性執刀医の補正後オッズ比は、幽門側胃切除術について0.98(95%信頼区間[CI]:0.74~1.29)、胃全摘術が0.83(0.57~1.19)、直腸低位前方切除術が0.56(0.30~1.05)だった。
また、Clavien-Dindo分類でGrade3以上の合併症と手術死亡の統合アウトカムについても、執刀医の男女間で有意差はなく、補正後オッズ比は、幽門側胃切除術が1.03(95%CI:0.93~1.14)、胃全摘術が0.92(0.81~1.05)、直腸低位前方切除術が1.02(0.91~1.15)だった。膵液漏(補正後オッズ比は幽門側胃切除術が1.16[95%CI:0.97~1.38]、胃全摘術1.02[0.84~1.23])、および直腸低位前方切除術の縫合不全(1.04[0.92~1.18])についても、執刀医の男女間で有意差はなかった。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)