SpO2目標値の高低で、人工呼吸器の非使用期間に差はあるか/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2022/11/08

 

 侵襲的人工呼吸管理を受けている重篤な成人患者では、酸素飽和度(SpO2)の目標値を3段階(低[90%]、中[94%]、高[98%])に分けた場合に、これら3群間で28日後までの人工呼吸器非使用日数に差はなく、院内死亡の割合も同程度であることが、米国・ヴァンダービルト大学のMatthew W. Semler氏らが実施した「PILOT試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年10月24日号に掲載された。

単一施設のクラスター無作為化クロスオーバー試験

 PILOT試験は、侵襲的人工呼吸管理下の患者における、異なるSpO2目標値が臨床アウトカムに及ぼす影響の比較を目的に、ヴァンダービルト大学医療センター(米国、ナッシュビル市)の救急診療部(ED)と集中治療室(ICU)で実施された実践的な非盲検クラスター無作為化クロスオーバー試験であり、2018年7月~2021年8月の期間に参加者の登録が行われた(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。

 対象は、ICUに入室またはEDを受診しICU入室が予定されている成人(年齢18歳以上)患者であり、侵襲的人工呼吸管理を最初に受けた時点で試験に登録された。

 被験者は、SpO2(パルスオキシメトリで測定)の目標値が低(90%、目標範囲:88~92%)、中(94%、92~96%)、高(98%、96~100%)の3つの群に無作為に割り付けられ、無作為に作成された順序で2ヵ月ごとに3つの群に切り換えられた。

 主要アウトカムは、28日以内の生存および人工呼吸器非使用日数とされた。副次アウトカムは28日目までの死亡であった。

安全性アウトカムの頻度も3群で同程度

 2,541例が主解析に含まれた。低目標値群が808例(年齢中央値57歳、女性44.7%)、中目標値群が859例(59歳、44.8%)、高目標値群は874例(59歳、46.8%)であった。SpO2中央値は、それぞれ94%、95%、97%で、SpO2が99%または100%の患者の割合は、12.3%、14.7%、32.7%、85%未満の患者の割合は、0.8%、0.6%、0.9%だった。

 28日目までの人工呼吸器非使用日数中央値は、低目標値群が20日(四分位範囲[IQR]:0~25)、中目標値群が21日(0~25)、高目標値群は21日(0~26)であり、3つの群で有意な差は認められなかった(p=0.81)。

 また、28日目までの院内死亡は、低目標値群が808例中281例(34.8%)、中目標値群が859例中292例(34.0%)、高目標値群は874例中290例(33.2%)であった。

 安全性のアウトカムについては、心停止、不整脈、心筋梗塞、脳卒中、気胸の発生は3つの群で同程度であった。有害事象は、低目標値群で1件(徐脈)みられた。

 著者は、「これらの知見の臨床的意義は、ICUで人工呼吸管理を受けている患者では、SpO2目標値を90%にまで低く設定して酸素補給を制限しても、死亡を防げず、人工呼吸器からの解放を早められないということである」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)