直径2.5ミクロン未満の微小粒子状物質(PM2.5)への曝露が認知症リスクの増加と関連する可能性があり、ややデータが少ないものの二酸化窒素と窒素酸化物への曝露にも同様の可能性があることが、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のElissa H. Wilker氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年4月5日号に掲載された。
認知症リスクと大気汚染物質の関連をメタ解析で評価
研究グループは、認知症リスクにおける大気汚染物質の役割の調査を目的に、文献の系統的レビューとメタ解析を行った(Harvard Chan National Institute of Environmental Health Sciences Center for Environmental Healthなどの助成を受けた)。
成人(年齢18歳以上)を対象に長期の追跡調査を行い、1年以上の曝露を平均化し、環境汚染物質と臨床的な認知症の関連を報告した研究を対象とした。
2人の研究者が別個に、所定のデータ抽出書式を用いてデータを抽出し、Risk of Bias In Non-randomised Studies of Exposures(ROBINS-E)の方法を用いてバイアスリスクを評価。結果に影響を与える可能性がある試験因子による違いが考慮された。
オゾンには関連がない
2,080件の記録から51件の研究が適格基準を満たし、メタ解析には16件が含まれた。積極的症例確認を行った研究が9件、受動的症例確認を行った研究が7件で、それぞれ4件および7件はバイアスリスクが高いと判定された。
PM
2.5については、14件の研究がメタ解析の対象となった。PM
2.5の曝露量2μg/m
3当たりの認知症のハザード比(HR)は1.04(95%信頼区間[CI]:0.99~1.09)であった。積極的症例確認を行った7件の研究では、HRは1.42(1.00~2.02)であり、受動的症例確認を行った7件の研究では、HRは1.03(0.98~1.07)だった。
また、二酸化窒素10μg/m
3当たりのHRは1.02(95%CI:0.98~1.06)(9研究)、窒素酸化物10μg/m
3当たりのHRは1.05(0.98~1.13)(5研究)であった。
一方、オゾン5μg/m
3当たりのHRは1.00(95%CI:0.98~1.05)(4研究)であり、認知症との明確な関連は認めなかった。
著者は、「本研究におけるメタ解析によるハザード比には限界があり、解釈には注意が必要である」とし、「今回示された知見は、PM
2.5やその他の大気汚染物質への曝露を制限することの公衆衛生上の重要性を支持し、疾病負担の評価や施策の審議を行う際に、環境汚染物質の認知症への影響に関する最良の推定値を提供するものである」と述べている。
(医学ライター 菅野 守)