中国において、微小粒子状物質(PM2.5)への曝露は、短期間で現在の規制濃度内であっても、出血性脳卒中を除くすべての主要心血管疾患による入院の増加と関連していることが明らかにされた。中国・華中科技大学のYaohua Tian氏らが、中国の主要184都市で実施した研究結果を報告した。疫学研究では、PM2.5による大気汚染と心血管疾患との正の関連性が報告されてきたが、ほとんどが先進国で実施されたもので、大気汚染レベル、構成、資源が大きく異なる発展途上国でのPM2.5汚染と心血管疾患との関連性は明確にはなっていなかった。BMJ誌2019年12月30日号掲載の報告。
中国184都市の心血管疾患入院患者計9百万例で、PM2.5との関連を解析
研究グループは、PM
2.5への短期曝露に関連する原因別主要心血管疾患入院リスクを推定する目的で時系列研究を行った。対象は、2014年1月1日~2017年12月31日に、都市従業者基本医療保険(Urban Employee Basic Medical Insurance)の全国データベースに記録された、184都市における心血管疾患入院患者883万4,533例である。
主要評価項目は、人口統計学的グループ別での、1次診断が虚血性心疾患、心不全、心調律異常、虚血性脳卒中および出血性脳卒中による入院(1日当たりの都市別件数)で、PM
2.5と心血管疾患との関連を推定した。PM
2.5と心血管疾患による入院との都市特異的関連性は過分散一般化加法モデルで推定し、ランダム効果メタ解析により都市別推定値を統合した。
1日10μg/m3上昇で、同日の心血管疾患(脳出血を除く)による入院率が増加
研究期間中の入院件数/日(平均±SD)は、心血管疾患47±74件、虚血性心疾患26±53件、心不全1±5件、心調律異常2±4件、虚血性脳卒中14±28件、出血性脳卒中2±4件であった。
PM
2.5が全国平均で10μg/m
3上昇したとき、同日の入院率は心血管疾患0.26%(95%信頼区間[CI]:0.17~0.35)、虚血性心疾患0.31%(0.22~0.40)、心不全0.27%(0.04~0.51)、心調律異常0.29%(0.12~0.46)、虚血性脳卒中0.29%(0.18~0.40)増加し関連が認められたが、出血性脳卒中(-0.02%、-0.23~0.19)との関連はなかった。
PM
2.5全国平均値と心血管疾患との関連性はわずかに非線形を示し、50μg/m
3未満では急勾配、50~250μg/m
3で緩やかな勾配、250μg/m
3以上でプラトーとなった。
心血管疾患による入院率は、PM
2.5濃度が最大15μg/m
3の日と比較して、15~25μg/m
3の日は1.1%(95%CI:0~2.2)、25~35μg/m
3の日は1.9%(0.6~3.2)、35~75μg/m
3の日は2.6%(1.3~3.9)、75μg/m
3以上の日は3.8%(2.1~5.5)、いずれも有意に増加した。
試算によれば、中国における心血管疾患による入院数は、PM
2.5の年間平均濃度の規制限度が中国グレード2(35μg/m
3)、中国グレード1(15μg/m
3)、およびWHO(10μg/m
3)を達成すれば減少することが示され、因果関係を慎重に仮定し推算すると、同国の心血管疾患による年間平均入院件数はそれぞれ、3万6,448件(95%CI:2万4,441~4万8,471)、8万5,270件(5万7,129~11万3,494)、9万7,516件(6万5,320~12万9,820)減少する可能性が示された。
(医学ライター 吉尾 幸恵)