大気中の相対的に高濃度の微小粒子状物質(PM2.5)への長期の曝露により、低濃度PM2.5への長期曝露に比べ、初発脳卒中とそのサブタイプの発生率が増加することが、中国・北京協和医学院のKeyong Huang氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2019年12月30日号に掲載された。北米や欧州では、大気中のPM2.5への長期曝露は、相対的に低濃度(典型的には、≦25μg/m3)であっても、脳卒中の発生と関連することが示されている。一方、大気中の高濃度PM2.5への長期曝露(通常、低~中所得国でみられる)と脳卒中の発生との関連を示すエビデンスはないという。
PM2.5長期曝露と脳卒中の関連を評価するコホート研究
研究グループは、大気中のPM
2.5への長期曝露が、脳卒中の発生に及ぼす影響を調査する目的で、地域住民ベースの前向きコホート研究を行った(National Key Research and Development Program of Chinaなどの助成による)。
解析には、中国の15省で実施されたPrediction for Atherosclerotic Cardiovascular Disease Risk in China(China-PAR)計画のデータを用いた。ベースライン時に脳卒中のない11万7,575人が解析に含まれた。
主要アウトカムは、全脳卒中、虚血性脳卒中、出血性脳卒中の発生とした。
高曝露量はリスクが53%増加
ベースラインの全体の平均年齢は50.9(SD 11.8)歳で、41.0%が男性であった。PM
2.5への曝露量で4群(31.2~54.5μg/m
3、54.6~59.6μg/m
3、59.7~78.2μg/m
3、78.3~97.0μg/m
3)に分けて、脳卒中の発生を比較した。
参加者の居住地住所における2000~15年の長期的なPM
2.5曝露量の平均値は64.9μg/m
3(範囲:31.2~97.0)であった。追跡期間90万214人年の間に、3,540例の初発脳卒中が発生し、そのうち63.0%(2,230例)が虚血性脳卒中、27.5%(973例)は出血性脳卒中であった。
曝露量が最も低い群(<54.5μg/m
3)と比較して、最も高い群(>78.2μg/m
3)は初発脳卒中のリスクが増加しており(ハザード比[HR]:1.53、95%信頼区間[CI]:1.34~1.74)、虚血性脳卒中(1.82、1.55~2.14)および出血性脳卒中(1.50、1.16~1.93)についても増加が認められた。
PM
2.5濃度が10μg/m
3増加するごとに、初発脳卒中のリスクが13%(HR:1.13、95%CI:1.09~1.17)増加し、虚血性脳卒中のリスクは20%(1.20、1.15~1.25)、出血性脳卒中のリスクは12%(1.12、1.05~1.20)増加した。
長期的なPM
2.5への曝露と初発脳卒中には、ほぼ直線的な曝露-反応関係が認められ、これは全脳卒中および2つのサブタイプのいずれにおいてもみられた。
著者は、「これらの知見は、中国だけでなく他の低~中所得国でも、大気汚染や脳卒中予防に関連する環境および保健双方の施策の開発において、意義のあるものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)