心筋梗塞と多枝病変を有する75歳以上の患者の治療において、生理学的評価ガイド下(physiology-guided)完全血行再建術は、責任病変のみへの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と比較して、1年後の時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、血行再建術の複合アウトカムのリスクが低下し、安全性アウトカムの指標の発生は同程度であったことが、イタリア・フェラーラ大学病院のSimone Biscaglia氏らが実施した「FIRE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年9月7日号で報告された。
欧州3ヵ国の医師主導無作為化臨床試験
FIRE試験は、欧州3ヵ国(イタリア、スペイン、ポーランド)の34施設が参加した医師主導の無作為化臨床試験であり、2019年7月~2021年10月に患者のスクリーニングを行った(イタリア・Consorzio Futuro in Ricercaの助成を受けた)。
対象は、年齢75歳以上、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)または非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)で入院し、責任病変へのPCIが成功し、冠動脈に1つ以上の非責任病変が存在する多枝病変を有する患者であった。
被験者を、責任病変のPCIに加えて生理学的評価ガイド下完全血行再建術を行う(完全血行再建術)群、または責任病変以外への血行再建術は行わない(責任病変のみ血行再建術)群に無作為に割り付けた。完全血行再建術群では、プレッシャーワイヤーまたは血管造影で機能的に重要な非責任病変を特定し、そのすべてにPCIを施行した。
主要アウトカムは、1年時点での死亡、心筋梗塞、脳卒中、虚血による血行再建術の複合とした。
完全血行再建術群で予後改善、心血管死と心筋梗塞の複合も良好
1,445例を登録し、完全血行再建術群に720例、責任病変のみ血行再建術群に725例を割り付けた。全体の年齢中央値は80歳(四分位範囲[IQR]:77~84)、528例(36.5%)が女性、509例(35.2%)がSTEMIによる入院患者であった。入院期間中央値は5日(IQR:4~8)で、責任病変のみ血行再建術群(5日[IQR:3~7])に比べ完全血行再建術群(6日[4~8])で長かった。
主要アウトカムのイベントは、責任病変のみ血行再建術群が152例(21.0%)で発現したのに対し、完全血行再建術群は113例(15.7%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.93、p=0.01)。この有益性は、4つの項目のうち脳卒中を除く3項目の減少によってもたらされた。1つのイベントを防止するための治療必要数(NNT)は19例であった。
主な副次アウトカムである心血管死と心筋梗塞の複合は、責任病変のみ血行再建術群では98例(13.5%)で発現したのに対し、完全血行再建術群は64例(8.9%)と低い値を示した(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88)。NNTは22例だった。
安全性のアウトカム(造影剤関連の急性腎障害、脳卒中、出血[BARCタイプ3、4、5]の複合)の発現は、完全血行再建術群では162例(22.5%)、責任病変のみ血行再建術群では148例(20.4%)で認め、両群間に有意な差はなかった(HR:1.11、95%CI:0.89~1.37、p=0.37)。
著者は、「待機的な侵襲性の冠動脈手術は、若年患者に比べ高齢患者では施行される可能性が低いが、今回の試験では、先行試験と一致して、高齢患者における生理学的評価ガイド下完全血行再建術によるリスクの低減を認めた。最初の1年間のKaplan-Meier曲線では経時的に2群間の乖離が進み、完全血行再建術の有益性の増加が観察された」としている。
(医学ライター 菅野 守)