集中治療室(ICU)に入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、非制限的で寛容な血糖コントロールと比較して厳格な血糖コントロールは、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさないことが、ベルギー・ルーベン・カトリック大学病院のJan Gunst氏らが実施した「TGC-Fast試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2023年9月28日号に掲載された。
ベルギーの医師主導型の無作為化対照比較試験
TGC-Fast試験は、ベルギーの2つの大学病院と1つの地区病院の11のICUで実施された医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2018年9月~2022年8月に参加者のスクリーニングを行った(Research Foundation-Flandersなどの助成を受けた)。
早期静脈栄養を受けていないICU入室患者を、非制限的血糖コントロール群または厳格血糖コントロール群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。非制限的血糖コントロール群では、血糖値が215mg/dL(11.9mmol/L)を超えた場合にのみインスリンの投与を行い、厳格血糖コントロール群では、LOGICインスリンアルゴリズムを用い、目標血糖値を80~110mg/dL(4.4~6.1 mmol/L)に設定した。静脈栄養は両群とも、1週間実施しなかった。
主要アウトカムは、ICUでの治療を要した期間とし、ICUから生存退室するまでの期間に基づいて算出した。安全性アウトカムは90日死亡率であった。
9,230例を登録し、4,622例を非制限的血糖コントロール群(年齢中央値67歳[四分位範囲[IQR]:56~75]、男性62.8%)、4,608例を厳格血糖コントロール群(67歳[57~75]、63.6%)に割り付けた。ベースラインの血糖値中央値は、非制限的血糖コントロール群が143 mg/dL(IQR:120~170)、厳格血糖コントロール群は142mg/dL(121~168)であった。
朝の血糖値が低く、1日インスリン用量が多い
非制限的血糖コントロール群に比べ厳格血糖コントロール群は、ICU入室中の朝の血糖値中央値が低く(140mg/dL[IQR:122~161]vs.107mg/dL[98~117]、群間差:-32mg/dL[95%信頼区間[CI]:-33~-32])、インスリンの用量中央値が高かった(0.0単位/日[IQR:0.0~5.6]vs.24.8単位/日[14.8~39.9]、群間差:21.0単位/日[95%CI:20.5~21.5])。
重症低血糖(<40mg/dL[<2.2mmol/L])の発生は、非制限的コントロール群のほうが少なかった(31例[0.7%]vs.47例[1.0%]、相対リスク:1.52[95%CI:0.97~2.39])。
ICUでの治療を要した期間(主要アウトカム)は、両群間に差を認めなかった(厳格血糖コントロールで生存退室が早くなるハザード比[HR]:1.00、95%CI:0.96~1.04、p=0.94)。また、90日死亡率にも差はなかった(非制限的血糖コントロール群468例[10.1%]vs.厳格血糖コントロール群486例[10.5%]、HR:1.04、95%CI:0.92~1.17、p=0.51)。
事前に規定された8項目の副次アウトカムの解析では、新規感染症の発生率、呼吸補助の時間、血行動態補助の時間、生存退院までの期間、ICU内死亡、院内死亡は、いずれも両群間に差はなかったのに対し、重症急性腎障害および胆汁うっ滞性肝機能障害は、厳格血糖コントロール群で少ないことが示唆された。
著者は、「本研究でICUに入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、先行研究で静脈栄養を受けた重症患者に比べ、低血糖の重症度が軽度であった。また、コンピュータアルゴリズムによって空腹時血糖値を正常範囲に低下させることで、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさずに、医原性低血糖を回避できた」としている。
(医学ライター 菅野 守)