血行動態が不安定な潜在的心ドナーにおいて、脳死判定後のレボチロキシン投与はプラセボ投与と比較して、心臓移植の有意な増加には結び付かなかった。米国・セントルイス・ワシントン大学のRajat Dhar氏らが、852例の脳死心ドナーを対象に行ったプラセボ対照無作為化非盲検試験の結果で示された。血行動態不安定と心機能障害は、脳死臓器提供者からの心臓移植を妨げる主な要因となっている。先行研究で、ホルモン補充療法を受けたドナーから、より多くの臓器移植が可能であることを示唆する観察データが示され、ドナーのケアではレボチロキシンの静脈内投与が広く行われている。NEJM誌2023年11月30日号掲載の報告。
米国15ヵ所の臓器調達機関を通じて無作為化試験
研究グループは米国15ヵ所の臓器調達機関を通じ、血行動態が不安定な心臓提供の可能性のあるドナーを対象に試験を行った。神経学的基準に基づく死亡宣告後24時間以内に、対象者をレボチロキシンを投与(30μg/時、12時間以上)する群、プラセボ(生理食塩水)を投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、非盲検下で静脈内投与した。
主要アウトカムはドナー心移植。事前に規定したレシピエントの主要安全性アウトカムは、移植後30日時点の移植心生着とした。
副次アウトカムは、昇圧薬治療からの離脱、ドナーの駆出率、ドナー1例当たりの移植臓器数などだった。
心移植率は両群ともに53~55%、移植心生着率も96~97%と同等
脳死ドナー852例が無作為化され、このうち838例(両群ともに419例)が主要解析に包含された。
心移植は、レボチロキシン群230例(54.9%)、プラセボ群223例(53.2%)で行われた(補正後リスク比:1.01、95%信頼区間[CI]:0.97~1.07、p=0.57)。
移植後30日時点の移植心生着は、レボチロキシン群の移植心臓224個(97.4%)、プラセボ群の移植心臓213個(95.5%)で認められた(群間差:1.9ポイント、95%CI:-2.3~6.0、非劣性のマージン6ポイントについてp<0.001)。
昇圧薬治療からの離脱や心エコーによるドナーの駆出率、ドナー1例当たりの移植臓器数について明らかな群間差はなかった。一方で、レボチロキシン群では、重症高血圧と頻拍の症例がプラセボ群より多く認められた。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)