心房内左右シャント作成デバイスはHFrEFの血行動態改善に有効か?(解説:絹川 弘一郎 氏)-518 難治性の肺高血圧症(PH)に対して、バルーンによる心房中隔裂開術(BAS)という治療がある(というか、あった)。この治療は、PHによる右心不全から上昇した右房圧を左房に逃がすことで、右室負荷を軽減するのみならず左室への血流を保ち心拍出量の増加につながるため、右左シャントによる低酸素血症を勘案しても血行動態的に有益であると考えられる症例に施行されてきた。
HOPE3試験:あまり新規性のない結果?(解説:興梠 貴英 氏)-517 HOPE3試験は、心血管疾患を持たないが中等度の心血管リスクを有する人間に対して、降圧治療およびLDLコレステロール低下治療を行うことで、イベントを減らすことができるのかをみた試験である。
食質の重要性と死亡リスクに的を絞り健康の原点を看破する!(解説:島田 俊夫 氏)-515 先進国では高齢化が急速に進み、大きな社会問題となっている。わが国は、この点でいまや世界のトップランナーであり、深刻な社会問題を抱えている。わが国の国民皆保険制度は優れた点も多いが、社会構造の急激な変化に対応できず破綻寸前である。このような状況の中で生きていくための食事の質(食質)の重要性に、注目が集中している。
トシリズマブは巨細胞性動脈炎に有効である(解説:金子 開知 氏)-514 巨細胞性動脈炎は、大動脈とその分枝の中~大型動脈に起こる肉芽腫性血管炎である。多くは50歳以上の高齢者に起こる疾患であり、とくに浅側頭動脈が好発部位で、最も重要な障害は失明である。臨床症状としては発熱、頭痛、視力・視野異常、下顎跛行、側頭動脈の圧痛や拍動を認める。また、約30%にリウマチ性多発筋痛症を合併する。検査所見では、赤沈亢進、CRP上昇を認める。治療は、中等量あるいは高用量のステロイドが第1選択である。しかし、ステロイド減量中の再燃や治療抵抗例が少なからず存在し、免疫抑制薬やTNF阻害薬の併用が試みられてきたが、有効性が十分とは言い難かった。近年、GCAに対してIL-6阻害薬であるトシリズマブ(tocilizumab:TCZ)の有効性が注目されている。
HOPE-3試験:仮説が不明で、かえって混乱を招く結果となった臨床試験(解説:桑島 巖 氏)-513 本試験の仮説がよくわからない。HOPE試験のようにACE阻害薬の“降圧を超えた心血管合併症予防効果”をARB検証するのであれば、サイアザイド利尿薬を併用せずに行うべきであったし、正常高値に対する降圧の有用性を検証するのであれば、ヒドロクロロチアジドではなく、降圧効果の確実なサイアザイド類似薬であるクロルタリドンあるいはインダパミドを併用するなり、降圧薬の用量調整をするなりして、さらに厳格に収縮期血圧で120mmHg前後まで下げるべきであった。本試験では降圧目標を設定しておらず、ただARBとサイアザイド利尿薬の固定用量を用いた場合のイベント抑制効果という、中途半端な試験である。
診療の現場における安全な処方に必要なものは何か…(解説:吉岡 成人 氏)-512 外科医が行う手術、内科医が行う外科的なインターベンションと並んで、抗菌薬や抗がん化学療法薬などに代表される薬物治療は、内科医にとって重要な治療のツールである。
「処方箋を書く」医師の行為は「将棋」か「チェス」か?(解説:後藤 信哉 氏)-511 医師の処方は、重要な治療行為である。「処方箋」が必要ということは、専門家が正確な知識に基づいて使用しなければ「危険」という意味もある。処方箋を書くときには、患者と危険を共有する勇気が必要である。
妊娠高血圧症候群は、周産期を過ぎても心筋症の発症リスクである(解説:神谷 千津子 氏)-510 周産期(産褥性)心筋症は、「心疾患既往のない女性が、妊娠中から産後5ないし6ヵ月以内に、原因不明の心機能低下と心不全を発症する」と定義される、2次性心筋症の1つである。周産期心筋症患者の4割が、妊娠高血圧症候群を発症した後に心筋症を診断されているため、妊娠高血圧症候群は周産期心筋症の最大危険因子といえる。しかしながら、妊娠高血圧症候群が、周産期を過ぎた後にも心筋症の危険因子となりうるかについては、これまでまったく知られていなかった。今回Behrens氏らは、デンマークの全国コホート研究から、妊娠高血圧症候群が周産期を過ぎても心筋症の発症リスクであると、JAMA誌2016年3月8日号に初めて報告した。
心血管疾患と悪性腫瘍の相同性(解説:後藤 信哉 氏)-509 動脈硬化は血管の老化とされる。また、動脈壁の慢性炎症変化ともいわれる。老化した細胞では、がん化のリスクも増加する。慢性炎症は発がんとも関連する。これらの事実を踏まえて考えると、心筋梗塞発症予防効果を有する薬剤に「がん化」予防効果があることは論理的必然ともいえる。
難民の精神病リスク~そしてわが祖国(解説:岡村 毅 氏)-507 非常に今日的な論文で刺激を受けた。現在起きている中東、北アフリカ、中央アジアの危機は第2次世界大戦以降、最も多くの難民を生み出しているという。そして大量の難民がヨーロッパに押し寄せ、統合を脅かしている。なかでも、人口比で最も多くの難民を受け入れているスウェーデンからこの報告がなされたことは必然である。
2型糖尿病における基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤の有用性は…(解説:吉岡 成人 氏)-506 米国糖尿病学会の推奨する2型糖尿病の治療アルゴリズムでは、第1選択薬はメトホルミンであり、単剤→2剤併用(注射薬であるインスリン、GLP-1受容体作動薬との併用も可)→3剤併用とステップアップして、最終的な注射薬との併用療法として、メトホルミンをベースに基礎インスリンと食事の際の(超)速効型インスリン製剤の併用(強化インスリン療法)、または、基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬の併用が勧められている。肥満が多い欧米の糖尿病患者においては、肥満を助長せず、食欲を亢進させないGLP-1受容体作動薬が広く使用されている。
無症候性高度頸動脈狭窄症に対するEPD併用CASのCEAに対する非劣性を証明(解説:中川原 譲二 氏)-505 これまでの臨床試験で、遠位塞栓を予防するデバイス(EPD)を用いた頸動脈ステント留置術(CAS)は、手術による合併症の標準または高リスク患者において、頸動脈内膜剥離術(CEA)の代替として効果的な治療であることが示唆されていた。
common variantsより rare variantsなのか?(解説:興梠 貴英 氏)-504 ヒトゲノム計画は、予定より2年早い2000年にドラフトが完成し、ひとつの区切りを迎えた。その後は、ポストゲノム時代と呼ばれるようになり、その中で、生活習慣病のように「ありふれた疾患」は遺伝子のコード領域にあって機能的変化をもたらすようなまれな変異ではなく、比較的アレル頻度が高い(common)変異(single nucleotide polymorphism;SNP)が複数集積することによりリスクが高まるのではないか、つまり、common disease common variantsという仮説の下、全ゲノム的なSNP検索が多く行われた。
診療所における高リスク処方を減らすための方策が立証された(解説:折笠 秀樹 氏)-503 このRCTでは特殊なデザイン、すなわちstepped wedge designというものを用いた。通常なら、介入を与えるか与えないかの2群間比較デザインだが、それでは与えない群のほうが不利となり、しかもオープン試験なので混乱しかねないため、どの診療所にも介入は与えられるが、その開始時期をずらすという変則的デザインを用いた。
生体吸収性ステントBVSに対する期待とエビデンスの持つ意味~メタ解析の結果~(解説:上田 恭敬 氏)-502 新たに開発された生体吸収性ステント(BVS)と、現時点で最も優れた臨床成績を示している金属製薬剤溶出性ステント(DES)の1つであるXienceステントを比較した、4つの無作為化比較試験の1年時成績のメタ解析が報告された。症例数の合計は、BVSが2,164症例、Xienceが1,225症例である。
筆頭著者が女性の割合は増えているが、それは女性研究者の増加に比例していた(解説:折笠 秀樹 氏)-501 筆頭著者が女性である割合について、主要6誌を対象にして、最近20年間の調査が行われた。10年前の先行研究では、その割合は米国で29%、英国で37%であった。今回の調査でもほぼ同様であり、全体で34%であった。女性割合の年次推移をみるには、研究領域や実施地域などで補正をした。なぜなら、年次によって女性の活躍が少ない研究領域の論文が多い可能性があるからである。このような補正をした後、女性筆頭著者の割合は27%(1994年)から37%(2014年)と、10%も増加(相対的には1.37倍)していた。
IRIS試験:脳梗塞とピオグリタゾン-インスリン抵抗性改善薬が経た長い道のり-(解説:住谷 哲 氏)-500 本論文のタイトルを見た時には、2型糖尿病患者における脳梗塞(以下では虚血性脳卒中および一過性脳虚血発作を脳梗塞とする)の再発予防にピオグリタゾンが有効なのかと思ったが、正しくは「インスリン抵抗性および脳梗塞の既往を有する非糖尿病患者に対して、ピオグリタゾンの投与は脳梗塞または心筋梗塞の発症リスクを有意に抑制した」との内容である。
高リスク処方回避の具体的方策が必要(解説:木村 健二郎 氏)-499 プライマリケア医のみならず、すべての医師の処方から、予防可能な薬剤関連の合併症を可能な限り減らすことは、医療人に全幅の信頼を寄せて服薬される患者さんに対する、われわれの義務である。