CLEAR!ジャーナル四天王|page:41

PCI技術の爛熟の時代―「不射の射」を目指す(解説:後藤信哉氏)-1086

PCI日本導入直後のころ、1枝病変を対象に心臓外科のback upの下、POBAをしていた。5%が急性閉塞して緊急バイパスとなった。ステントの導入により解離による急性閉塞から、2週間以内のステント血栓症に合併症がシフトした。頑固なステント血栓症もアスピリンとチクロピジンの抗血小板薬併用療法により制圧された。安全性の改善されたクロピドグレルが標準治療となると、長期に継続する抗血小板療法による出血合併症が血栓イベントよりも大きな時代を迎えた。

血小板機能を標的としたランダム化比較試験に意味があるか?(解説:後藤信哉氏)-1083

新薬を開発するためには、過去の標準治療の欠点を挙げる必要がある。正直、クロピドグレルは革新的抗血小板薬であった。効果の不十分性をステント血栓症により実感させる冠動脈ステント例でも十分に有効とされた。頭蓋内出血などの出血合併症も決して多くはない。プラスグレル、チカグレロルと同種の薬剤が開発されたが、安価になったクロピドグレルを転換するインパクトはなかなか出せない。TRITON-TIMI 38試験ではプラスグレルにより優れた抗血栓薬効果を得るためには、出血死も含む重篤な出血の増加が必要なことが示された。試験のプロトコールを工夫したPLATO試験では出血増加を前面に出さずにチカグレロルの効果を示したが、冠動脈疾患以外への適応拡大は困難であった。

14年間追跡でもEVARの生存率に優位性なし(解説:中澤達氏)-1082

OVER試験の最長14年間追跡で腹部大動脈瘤に対する待機的血管内治療は、従来の開腹手術と比較して周術期死亡率を低下させるが、4年以降の生存には差がないことが示された。EVAR-1試験、DREAM試験の長期追跡でも同様の結果であり、新しい知見は得られなかった。破裂性腹部大動脈瘤に対する臨床的効果および費用対効果の無作為化試験「IMPROVE試験」でもほぼ同様で、3年では、EVAR群の死亡が開腹手術群よりも有意に少なかった。しかし、7年時点では、死亡率は両群とも約60%となった。3年時点ではEVARが開腹手術よりも生存期間を延長し、質調整生存年(QALY)の獲得が大きく、再手術率は同程度であり、コストは低く、費用対効果に優れていた。

非難されても致し方がない偏った論文(解説:野間重孝氏)-1081

今回の論文評では少々極端な意見を申し述べると思うので、もし私の思い違い・読み違いだったとしたら、ご意見を賜りたくお願いしてから本題に入らせていただく。本研究は虚血性心筋障害が疑われる患者に対して高感度トロポニンT/Iが心筋梗塞の正確な診断に利用されうるだけでなく、その予後情報としても利用できることを示そうと行われた研究である。具体的には救急外来受診時すぐに採血された値とその後一定時間をおいてから採血された2回目の採血結果を比較し、初回値だけをみるのではなく、2回目の数値を採血の間隔とも統合してみることにより、より正確な診断のみでなく、その後の心血管イベントの発生リスクまでも予測できるとしたものである。

ヒトが長生きをすると脳に何が起きるのか(解説:岡村毅氏)-1080

従来のアルツハイマー型認知症の創薬が完全に失敗した今こそ、地道に一歩一歩進むしかない。そこでこのような地味な臨床論文が重要だ。もちろん本論文は神経画像の有力チームからの論文であるが、神経学の専門家以外には地味な論文に見えることだろう。今から、そのすごさを解説してみよう。まず、今世紀の研究を簡単に振り返り、私たちの立ち位置を眺めてみよう。かつてアルツハイマー型認知症は、死後でなければ診断できなかった。しかし脳内のアミロイドやタウを生体で可視化できるようになったことで、新たな研究が可能になった。そしてADNIという世界的共同研究が、アミロイド→タウ→形態変化→記憶障害(発症)、という病態仮説を証明した。

欧米と日本における切除可能進行胃がんに対する周術期化学療法の大きな乖離(解説:上村直実氏)-1079

日本と西欧における胃がんの化学療法に大きな乖離が存在することを示す研究論文である。日本の胃がん治療ガイドラインでは手術可能な進行胃がんに対する周術期化学療法については欧米とまったく異なるレジメンが推奨されている。すなわち、日本における切除可能な進行胃がんに対する周術期化学療法は主に術後補助化学治療として施行されており、その主役はS-1である。手術可能な進行がんを対象として日本で行われたS-1+ドセタキセル併用療法と標準治療とされていたS-1単独を比較したRCT(JACCRO GC-07試験)において、主要評価項目である3年無再発生存(RFS)率は併用療法群が65.9%、S-1単独群が49.5%であり、前者が有意に優れていた。その結果、現在ではS-1+ドセタキセル併用療法が標準的な術後補助化学治療と考えられる。

アスピリン前投与で免疫学的便潜血検査法の精度は向上しない (解説:上村直実氏)-1078

本邦では、胃がんが減少する反面、大腸がん死亡者数が増加し、がん死亡順位で女性1位、男性3位となり、大腸がんに対する対策として、免疫学的便潜血検査を用いた公的な検診の受診率を上げる方策が模索されている。一方、米国では『10年に1回の全大腸内視鏡検査もしくは毎年のFITを行うことを推奨する』とされている。すなわち、微小ポリープが進行大腸がんになるためには10年必要との仮説を基に、大腸がんの検出に最も精度が高いTCFを10年に1回行うか、簡便で死亡率減少効果が示されているFITを毎年行うかのどちらかで大腸がんによる死亡を防ぐ方針である。毎年1回のFITは簡便で良い方法であるが、前がん病変の検出感度や病変的中率が高くないため、欧米では感度および的中率を上げる種々の工夫が報告されている。

Sepsisの4タイプの表現型の提唱とその評価(解説:吉田敦氏)-1077

敗血症にはさまざまな症例が含まれ、臨床症状・徴候のスペクトラムは幅広い。このため臨床病型を分別し、より精確なマネジメントにつなげようとする試みはこれまで長く続けられてきた。2016年には「敗血症および敗血症性ショックの国際コンセンサス定義 第3版(Sepsis-3)」が発表され、定義も新しくなり、SOFA(PaO2/FiO2、血小板数、ビリルビン、平均動脈圧、GCS、クレアチニン)・qSOFA(収縮期血圧、呼吸数、GCS)が導入されたが、このような試みはそれ以前からのものである。今回3個の観察コホート研究と3個のランダム化臨床試験(合計6個)から得られたデータを後方視的に解析することで、病型自体導出できるのか、できるならば病型はいくつか、導出された病型の妥当性・再現性はどうか、検討が行われた。

安定狭心症の血行再建適応評価はMRIとFFRのいずれで行うべきか?(解説:上田恭敬氏)-1076

典型的な狭心症症状があって、トレッドミル負荷心電図陽性で、複数の冠危険因子を持つ918症例を登録して、MRIによる虚血評価を行う群とFFRによる虚血評価を行う群に無作為に割り付ける、国際多施設無作為化非劣性試験が行われた。主要評価項目は12ヵ月時点でのMACE(全死亡、心筋梗塞、target-vessel revascularization)であった。MRI群(454症例)のうち445例が実際にMRIを受け、221例が虚血陽性となったためCAGが必要とされた。実際にCAGを実施した219例のうちCAG陽性であった184例(40.5%)が血行再建(PCIまたはCABG)の適応ありと判断されたが、実際に血行再建を受けたのは162例(35.7%)であった。

未治療骨髄腫に対するダラツムマブ、レナリドミド、デキサメタゾン併用療法に期待するモノ(解説:藤原弘氏)-1075

新規治療薬開発が進み、QOLの改善と全生存率の延長が進む多発性骨髄腫だが、いまだに治癒しない。そこで、次の治療戦略が微小残存病変陰性完全寛解の達成から無増悪生存の延長、その先に治癒を見据えるのは理にかなっている。Proteosome阻害剤、iMIDsに加えて抗体製剤の登場が、その流れを加速させている。最近、自己造血幹細胞移植適応のない未治療MMに対するダラツムマブ併用レナリドミド/デキサメタゾン療法のLd療法に対する優位性を示す大規模な第III相臨床試験の結果が、Facon T.博士らのグループからNew England Journal of Medicine誌に掲載された(内容はすでに2018年、米国血液学会で報告されていたが)。

ステントを捨てんといてな! 薬剤コーティングバルーンの好成績(解説:中川義久氏)-1074

薬剤コーティングバルーンは、ステント再狭窄病変や小血管への治療において有効とされてきた。血管径が十分に維持されたde-Novo病変を、バルーン拡張のみで終了することは、急性冠閉塞の危険性も高く再狭窄の懸念もあることから、金属製ステントの適応とされてきた。とくに薬剤溶出性ステント(DES)の成績向上とともに、DESの使用は確立したものと考えられていた。その確信に風穴を開けるような報告がLancet誌オンライン版2019年6月13日号にデビューした。その名も「DEBUT試験」である。出血リスクが高い患者に対するPCIにおいて、DCBはベアメタルステントに比べて勝っていることを示したものである。

前立腺がんへの超寡分割照射vs.標準照射(解説:宮嶋哲氏)-1073

Scandinavian HYPO-RT-PC試験は転移のない前立腺がんを対象に、標準照射と比較し、超寡分割照射の非劣性を検討することを目的とした第III相無作為ランダム化比較臨床試験である。本試験はスウェーデンとデンマークの12施設において、2005年からの10年にわたって施行された。リンパ節転移ならびに遠隔転移のない75歳以下の中〜高リスク前立腺がん患者1,200例を対象に、原発巣である前立腺への放射線照射が無病生存率に寄与するのか検討を行っている。本試験では、標準照射群(591例)、または超寡分割照射群(589例)の2群にランダム化している。標準放射線照射群は連日照射を8週間施行し(78Gy/39Fr)、超寡分割照射群は2.5週7回の照射を施行するプロトコル(42.7Gy/7Fr)であった。

灌流画像を用いた血栓溶解療法は、発症後9時間までの脳梗塞と睡眠中に発症した脳梗塞にまで治療時間枠を拡大できる:個別患者データのメタ解析(解説:内山真一郎氏)-1072

アルテプラーゼによる血栓溶解療法は脳梗塞発症後4.5時間までが推奨されているが、4.5時間以上か睡眠中に発症し、救済しうる脳組織がある患者に血栓溶解療法が有効であることを灌流画像が同定できるかどうかをメタ解析により検討した研究である。脳梗塞発症後4.5~9時間か起床時に脳卒中症状がある患者においてMRIかCTで灌流を評価しているアルテプラーゼのプラセボ対照無作為化比較試験を検索し、1次評価項目として3ヵ月後の転帰良好(改訂ランキン尺度0または1)、安全性評価項目として死亡または症候性頭蓋内出血を検討している。

進行胃がんに対する腹腔鏡下幽門側胃切除は開腹術に匹敵するか?(解説:上村直実氏)-1071

最近の疫学調査によると、ピロリ感染者数の減少や除菌治療の普及により胃がん死亡者は減少の一途をたどっている。さらに、全国の検診体制の充実や内視鏡検査の普及により早期発見される胃がんが多くなり、内視鏡的切除術の件数が著明に増加しているのが現状である。しかし、臨床現場では手術可能な進行胃がんに遭遇する機会も少なくなく、従来の開腹手術と腹腔鏡下手術の適応に迷うこともある。日本、韓国および中国において両術式の有用性と安全性を検証する無作為介入試験(RCT)が進行中であるが、今回、進行胃がん(T2〜T4a)の約1,000症例を対象として中国で実施されたCLASS-01試験の結果が報告された。

経口GLP-1受容体作動薬の心血管安全性を確認(解説:吉岡成人氏)-1070

日本では未発売の製剤であるが、GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドと構造が類似した週1回注射製剤セマグルチドは、2型糖尿病患者の心血管イベントを抑止することがすでに確認されている。また、セマグルチドには経口製剤があり(吸収促進剤により胃粘膜でのセマグルチドの分解を阻害し、胃粘膜細胞間隙から薬剤が吸収される製剤)、1日1回の経口投与によって注射製剤と同等のHbA1c低下作用と体重減少作用が示されている。今回、経口セマグルチドの承認申請前に実施する心血管系に対する安全性を評価する試験の結果が公表された。

GLP-1受容体作動薬、デュラグルチドは2型糖尿病患者の腎イベントを抑制するか?:REWIND試験の腎に関する予備解析結果(解説:栗山哲氏)-1069

2型糖尿病においてGLP-1受容体作動薬、デュラグルチドのadd-on療法は、新規アルブミン尿発症を抑制する。インクレチン薬であるGLP-1受容体作動薬の腎作用が解明されつつある。現在までにGLP-1受容体作動薬に関する大規模研究は、セマグルチドのSUSTAIN-6研究、リラグルチドのLEADER研究、リキシセナチドのELIXA研究の3つ報告がある。この中で、前二者において腎複合イベントに改善作用が示唆された(ELIXA研究では腎イベントは事前設定されていない)。

脳卒中治療の進歩により死亡率はどこまで減少したか?(解説:有馬久富氏)-1067

イングランド全域における脳卒中による死亡率の推移がBMJに掲載された。その結果によると、2001~10年までの10年間に脳卒中による年齢調整死亡率は半減した。その多く(7割程度)は致死率の低下によりもたらされており、神経画像診断の進歩・脳梗塞に対する血栓溶解療法の適応拡大・血管内治療の出現など脳卒中治療の改善が大きく寄与したものと考えられる。一方、脳卒中発症率の推移をみると、10年間に約2割程度しか減少していない。さらに悪いことに、55歳未満では脳卒中発症率が増加していた。INTERSTROKE研究2)で示唆されたように脳卒中発症の9割が予防できるにもかかわらず、十分に予防できていないのは非常に残念である。

メタゲノム解析による中枢神経感染症の原因診断(解説:吉田敦氏)-1068

髄膜炎・脳炎といった中枢神経感染症では、速やかな原因微生物の決定と、適切な治療の開始が予後に大きな影響を及ぼす。ただし現実として、原因微生物が決定できない例のみならず、感染症と判断することに迷う例にも遭遇する。抗菌薬の前投与があれば、脳脊髄液(CSF)の培養は高率に偽陰性となるし、CSFから核酸ないし抗原検査で決定できる微生物の種類も限られている。このような例について、病原微生物の種類によらず遺伝子を検出できる次世代シークエンサー(NGS)によるメタゲノム解析を用いれば、原因微生物を決定でき、マネジメントも向上するのではないか―という疑問と期待はかねてから存在していた。

SCARLET試験:敗血症関連凝固障害に対する遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリンの有効性(解説:小金丸博氏)-1066

敗血症関連凝固障害はINR延長や血小板数低下で定義され、28日死亡率と相関することが報告されている。遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン(rhsTM)製剤は、播種性血管内凝固(DIC)が疑われる敗血症患者を対象とした第IIb相ランダム化試験の事後解析において、死亡率を下げる可能性が示唆されていた。今回、敗血症関連凝固障害に対するrhsTM製剤の有効性を検討した第III相試験(SCARLET試験)の結果が発表された。本試験は、26ヵ国159施設が参加した二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験であり、集中治療室に入室した心血管あるいは呼吸器障害を伴う敗血症関連凝固障害患者を対象とした。

人種は、リスクか?- CREOLE試験の挑戦(解説:石上友章氏)-1065

米国は、人種のるつぼといわれる、移民の国である。17世紀、メイフラワー号に乗船したピルグリム・ファーザーズによるプリマス植民地への入植は、その当初友好的であったといわれている。しかし、米国建国に至る歴史は、対立抜きに語ることはできない。対立は、民族であったり、皮膚の色であったり、宗教の対立であった。高血圧の領域には、半ば伝説的な“学説”が信じられており、驚くべきことに、今に至るも受け入れられている。筆者も学生時代の当時、講義中に語られたと記憶している。