第2回 患者になって『ブラック・ジャック』を読んだらつらかった話

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公開日:2019/12/25

患者と医療従事者の間に生じるコミュニケーションギャップ。誰もが少なからず感じたことがあるのではないでしょうか。2019年9月、神奈川県横浜市は、医療現場で生じるコミュニケーションギャップの改善を目的に、医療現場における「視点の違い」を描く「医療マンガ大賞」を募集しました。その受賞作決定を記念して、“SNS医療のカタチ”所属医師4人と写真家の幡野 広志氏が登壇したアフタートークイベントが12月に開催されたので、こちらで一部内容をご報告します。

第2回 患者になって『ブラック・ジャック』を読んだらつらかった話

幡野 広志氏が語る、患者視点で読む医療漫画とは

第2回 患者になって『ブラック・ジャック』を読んだらつらかった話

市原(ヤンデル):

ここからは、写真家・幡野 広志さんを迎えて、患者視点で読み解く「医療漫画」について聞いていきましょう。

大塚:

僕、幡野さんがイベントに来ると聞いたとき、「幡野さんは医療漫画をどういう視点で読んでいるんだろう?」とすごく気になったので、今日はそれを聞くために来たんですよ。

幡野:

ありがとうございます。漫画は結構好きで、家の本棚には『国境を駆ける医師イコマ』(作者:高野洋)があります。国境なき医師団をテーマにした漫画で、絵はあんまり…ですが、すっごくおもしろいです。将来、息子に読んでほしくて置いてありますね。

あと、『ブラック・ジャック』(同:手塚治虫)は、中学時代から何度も読んでいます。ところが、最近読み直したとき、少し見え方が変わっていました。前はすごくおもしろかったのですが、今になって読んだら、結構つらいんですよ。

参加者:

へぇ~…!

第2回 患者になって『ブラック・ジャック』を読んだらつらかった話

幡野:

ブラック・ジャックという医者はほとんどのケースで、患者の家族や友人など、周りの人から頼まれて、問答無用で病気や怪我を治してしまいます。ブラック・ジャックは患者とほぼコミュニケーションをとらないし、かと思いきや「死にたい」と言った患者をぶっ叩くこともある。エピソードには患者の意思がほとんど反映されていなくて、周囲の人にスポットが当てられた感動ドラマだと感じます。

だから、患者視点で読むと、結構つらい。病気が発覚する前は、ブラック・ジャックみたいな医者が正しいと思っていました。でも、今もしも自分がブラック・ジャックの患者だったら、正直勘弁だなと思ってしまいます。

病気って“治したら幸せ”というものではないんですよね。病気になったことで仕事を失ったとか、人間関係が壊れたとか、婚約が破棄されたとか…。そこでまず、自分が思い描いていた人生が壊れているんです。

病気だけ治しても、仕事や人間関係が戻るわけではない。むしろ、その後どうやって生活していくのかという問題が残ります。現実は、漫画のように「病気を治してハッピーエンド」とはならない。それは普段から感じることですね。

大塚:

なるほど。

幡野:

その点、「医療マンガ大賞」は、患者さん視点も医療従事者視点も、両方から見たというのがすごくよかったですね。

終末期の対応から考える、患者視点と医療者視点の違い

エピソードNo.3 人生の最終段階(患者視点)

幡野:

大賞作品について、ひとつ気になった点がありました。終末期の患者さんの意識がなくなり、ご家族が「先生、何とかしてください!」と言ったとき、実際の現場で、医師が「何もしない」という状況はありえないのではないですか?

患者本人が延命を望んでいなくとも、家族からそう言われたら、医師は「何かしなくては」と思うでしょう。この作品は、「(患者の意思を尊重して)何もしなかった」というレアケースだからこそ、心に刺さるエピソードなのではないでしょうか。

山本(けいゆう):

ご高齢の患者さん本人が延命を望んでいなくて、ご家族も承諾していた場合、最期に「何とかしてください」と言われる展開になることは少ないように思います。逆にそのような状況になった場合、われわれの説明に問題があったのかもしれません。つまり、患者さん本人は延命治療を望んでいないという事実を、ご家族と医療従事者で共有できていなかったということになるので。

幡野:

なるほど。

山本(けいゆう):

ご指摘の部分に関しては、医療従事者の視点で考えると、まずそこに1つの反省点があるはずです。もちろん、「何とかしてください!」と言われたとき、あっさりとした対応はできません。家族の求めに応じて治療をして、長期的な延命が望めない場合には、もう一度説明する必要があると思います。

堀向(ほむほむ):

僕はどちらかと言うと“死”には慣れていないので、少し違う視点かもしれません。僕が診ている新生児は、そこから人生が始まるので、「全員蘇生」という意識を持っています。このエピソードは亡くなる前の蘇生ですが、僕が関わるのは生まれたときの蘇生です。その後どうなるか、誰にも予測がつかないので、あきらめることはできないですね。

たとえば、意識のない妊婦から生まれた新生児が(チアノーゼで)真っ黒でも、僕らが呼ばれた時点で治療しないことは基本的にありません。ただ、あきらめないことがいいかと言われると、自分でもわからくなってしまう部分もあります。

幡野:

すごいですね。これって、なかなか普段は表に出てこない本音ですよね。

市原(ヤンデル):

全部本音ですね。大賞作品の話から始まりましたが、それぞれの視点によってどんどん自分事にしていくのは、この会の醍醐味ですよね(笑)。

―次回は、引き続き幡野さんとのトークセッションをお送りします。

市原 真【病理医ヤンデル@Dr_yandel】(SNS医療のカタチ/医師)

1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒、国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)研修後、札幌厚生病院病理診断科。現在は主任部長。医学博士。病理専門医・研修指導医、臨床検査管理医、細胞診専門医。日本病理学会学術評議員(日本病理学会「社会への情報発信委員会」委員)。

堀向 健太【アレルギー専門医ほむほむ@ped_allergy】(SNS 医療のカタチ/医師)

1998年、鳥取大学医学部卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。日本小児科学会専門医/指導医。日本アレルギー学会専門医/指導医。日本小児アレルギー学会代議員。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設。

大塚 篤司【@otsukaman】(SNS医療のカタチ/医師)

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員を経て、京都大学医学部特定准教授として診療・研究・教育に取り組んでいる。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)『世界最高のエビデンスでやさしく伝える 最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)がある。2018年より、SNS時代の新しい医療の啓蒙活動を行う「SNS医療のカタチ」プロジェクト活動を行う。

山本 健人【外科医けいゆう@keiyou30】(SNS医療のカタチ/医師)

2010年京都大学医学部卒業。複数の市中病院勤務を経て、現在、京都大学大学院医学研究科博士課程在籍。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。「医師と患者の垣根をなくしたい」をモットーに、「外科医けいゆう」のペンネームで17年に医療情報サイト「外科医の視点」を開設。著書に『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)『外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵』(シービーアール)がある。CareNet.comでは【外科医けいゆうの気になる話題】を連載。

幡野 広志【@hatanohiroshi】(写真家)

1983年東京生まれ。2004年日本写真芸術専門学校中退。2010年広告写真家高崎 勉氏に師事。「海上遺跡」Nikon Juna21受賞。2011年独立、結婚。2012年エプソンフォトグランプリ入賞。狩猟免許取得。2016年息子誕生。2017年に多発性骨髄腫を発病。cakesで「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」を連載中。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)がある。

医療マンガ大賞

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