5-HT1A受容体が精神科薬物治療で注目されている

提供元:ケアネット

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公開日:2013/06/28

 

 スペイン・バルセロナ バイオメディカル研究所のPau Celada氏らは、新たな精神疾患の治療薬開発にあたって注目されているセロトニン5-HT1Aの合理的根拠と研究の現状について報告した。冒頭、著者は精神疾患の治療薬の現状について、「現代社会において精神疾患は、多額の経済損失をもたらしている。一方で、薬物治療は、いまだ至適とは言い難い状況にある」と指摘している。CNS Drugsオンライン版2013年6月12日号の掲載報告。

 著者は5-HT1Aに着目した背景について、「大うつ病性障害(MDD)および不安障害に用いられる薬品(選択的セロトニン5-HT再取り込み阻害薬[SSRI]、セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬[SNRI])は、第一世代の三環系が改良されたものである。偶然に発見されたものであり、有効性は低く、効果が出るまでに時間がかかる。また、抗精神病薬は、統合失調症の陽性症状には多少は効果があるが、陰性症状および認知障害への効果は乏しい」と述べている。そのうえで、5-HT1Aに着目した根拠、その研究の現状と今後の展望などについてまとめた。

シナプス前後5-HT1A受容体の活性は抗不安および抗うつ効果にいずれも必要

 5-HT1Aの合理的根拠と研究の現状について報告した主な内容は以下のとおり。

・直近の論文において、神経生物学的基盤に着目し、MDDや不安障害といった精神疾患の治療における5-HT1A受容体(5-HT1A-R)機能、およびシナプス前後の5-HT1A-Rの役割が見直されている。
・具体的には、コルチコ辺縁系におけるシナプス後5-HT1A-R活性は、抗うつ薬の治療的作用として有望視されている一方で、シナプス前5-HT1A-Rは、MDDにおいて有害な役割を演じることが解明されており、シナプス前5-HT1A-Rが高密度・機能の人では、気分障害や自殺への感受性が高く、抗うつ薬への反応性が不良である。さらに、SSRI/SNRIによる間接的なシナプス前5-HT1A-Rの活性は、5-HTニューロン活性と末端5-HT放出を低減し、そのため細胞外5-HTの上昇に対して前脳のセロトニントランスポーター(SERT)の遮断が引き起こされる。
・慢性の抗うつ薬治療は、シナプス前5-HT1A-Rの感度を減じる。そのため5-HT1A自己受容体による陰性症状への効果が低下する。
・非選択的部分作用薬ピンドロール(商品名:カルビスケンほか)は、このプロセスを防御し、臨床的な抗うつ作用を促進する。
・2種の新たな抗うつ薬であるvilazodone(米国で販売、国内未承認)とvortioxetine(開発中)は、SERT遮断の5-HT1A-R部分作動薬である。
・トランスジェニックマウスを用いたいくつかの研究においても、MDDと不安障害におけるシナプス前後5-HT1A-Rのそれぞれの役割が立証されている。
・薬理学的研究においても、シナプス前後5-HT1A-Rの活性は、抗不安および抗うつ効果にいずれも必要であること、さらに5-HT1A-Rの神経発生的役割についても必要であると思われる見解が示されている。
・同様に、選択的5-HT1A自己受容体ノックダウンマウスにおいて、siRNAを用いることで強力な抗うつ様の効果を示すことが可能であることも明らかになっている。
・また、前頭前皮質(PFC)におけるシナプス後5-HT1A-Rは、統合失調症治療においてクロザピンとその他の第2世代(非定型)抗精神病薬の優れた臨床効果にとって重要であり、精神疾患との関連が認められている。
・結合試験で5-HT1A-Rは、in vitroにおける中程度の親和性を示したが、クロザピン(同:クロザリル)はこのタイプの受容体とin vivoにおいて機能作動薬の性質を示した。
・PFCにおける5-HT1A-Rの刺激作用は、中脳皮質神経路の遠位活性をもたらし、PFCのドパミン放出を増大する。また、統合失調症の陰性症状と認知障害におけるクロザピンの臨床的活性と関与している可能性がある効果を増大することが示された。
・前臨床試験において、5-HT1A-R作動薬の抗不安/抗うつ作用特性は予想を大きく上回るものであった。しかしながら、これらの作動薬は、おそらくシナプス後5-HT1A-Rの部分的作動特性とシナプス前5-HT1A-R自己受容体の完全作動性、および消化器系への副作用のため、臨床的成功には至っていない。
・部分的5-HT1A-R作動薬のブスピロン、ジェピロン(ともに国内未承認)、タンドスピロン(同:セディール)は、抗不安薬として上市されており、ブスピロンは、MDDでも利用促進の戦略が取られている。
・新たな選択的シナプス後5-HT1A-R作動薬の開発が、精神疾患治療薬の新たな展望を開く可能性がある。

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(ケアネット)