抗精神病薬投与は統合失調症の治療の柱であるが、大多数の患者でアドヒアランス不良が顕著な問題となっている。それらの患者に対しては持効性注射剤(LAI)が治療オプションとして推奨されているが、その利点に関するエビデンスは明確ではなく、とくに新規の第2世代LAIに関する観察データは限定的であった。米国・ペンシルベニア大学のSteven C. Marcus氏らによるメディケイド支払データベースの分析結果から、退院後の統合失調症患者に対する投薬は、LAIのベネフィットを支持するエビデンスが増加していることが示唆された。製剤はとくに第2世代LAIで認められた。著者らは、「新たなLAIが登場しており、さらなる大規模なリアルワールド試験を行い、LAIの臨床的アウトカムおよびコスト面での利点を詳細に明らかにする必要があるだろう」とまとめている。Journal of Managed Care & Specialty Pharmacy誌2015年9月号の掲載報告。
研究グループは、メディケイド患者のデータを用いて、統合失調症関連の入院後6ヵ月間の経口薬 vs.LAIの抗精神病薬投与について、アドヒアランス不良、投薬中断、再入院率を調べる検討を行った。2010~13年のTruven Health Analytics MarketScanのメディケア研究データベースを利用し、直近にアドヒアランス不良(前6ヵ月間)が認められ、経口薬またはLAIを投与されていた統合失調症関連での入院後30日以内の成人患者を特定し評価した。主要評価項目は、退院後6ヵ月間について調べたアドヒアランス不良(服用日数割合が0.80未満)、服用中断(60日以上服用なし)、統合失調症関連の再入院であった。社会人口統計学的、臨床的および治療の特色に関して、記述的分析法を用いて経口薬使用群 vs.LAI使用群を比較した。ロジスティック回帰分析法により、特色の違いを調整し、経口薬 vs.LAIの使用と各試験アウトカムの関連を調べた。すべてのアウトカムは、3つの分析レベル、すなわち全LAIクラス、世代レベル(第1世代[FGA]または第2世代[SGA])、個々のLAI製剤(フルフェナジンデカン酸エステル、ハロペリドールデカン酸エステル、リスペリドンLAI、パリペリドンパルミチン酸エステル)で比較検討した。
主な結果は以下のとおり。
・最終サンプルでは、退院後の経口薬使用者は91%(3,428例)、LAI使用者は9.0%(340例)であった。LAI群のうち、SGA LAI使用は半数強(53.8%、183例)であった。
・アドヒアランス不良患者の割合は、経口薬群と比較してLAI群が有意に少なかった(51.8% vs.67.7%、p<0.001)。60日間以上の中断者の割合も有意に少なく(23.8% vs.39.4%、p<0.001)、統合失調症の再入院率も有意に低かった(19.1% vs.25.3%、p=0.01)。
・これらの差の大きさは、SGA LAI使用群と経口薬使用群のアドヒアランス不良の比較において拡大した。
・すべての差を共変量で調整後、経口薬使用群との比較において、LAI開始群の以下のオッズ比が有意に低かった。アドヒアランス不良の補正後オッズ比(AOR)が 0.35(95%信頼区間[CI]:0.27~0.46、p<0.001)、60日間以上の中断のAORが0.45(同: 0.34~0.60、p<0.001)。
・FGA LAI群とSGA LAI群はいずれも、経口薬群との比較においてアドヒアランス不良のオッズ比が低かった。
・同様に60日間以上の中断についても、経口薬群との比較でFGA LAI使用者(AOR:0.58、95CI:0.40~0.85、p=0.005)、SGA LAI開始者(同:0.34、0.23~0.51、p<0.001)のオッズ比が有意に低かった。
・また、経口薬群との比較において、LAI開始者は再入院率のオッズ比も有意に低かった(AOR:0.73、95%CI:0.54~0.99、p=0.041)。しかし、製剤の世代別に分析した場合は、SGA LAI使用群のみが、再入院オッズ比が統計的に有意に低く(AOR:0.59、95%CI:0.38~0.90、p=0.015)、FGA LAI群では有意な低下はみられなかった(同:0.90、0.60~1.34、p=0.599)。
・LAI製剤個別の分析では、再入院オッズ比は、パリペリドンパルミチン酸エステル開始群でのみ、経口薬群との統計的に有意な差が認められた(AOR:0.53、95%CI:0.30~0.94、p=0.031)。
・リスペリドンLAI群の経口薬群と比較した再入院のオッズ比は33%低下したが、統計的な有意差には達しなかった(AOR:0.67、95%CI:0.37~1.22、p=0.194)。
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