2016年8月30日、塩野義製薬株式会社主催の第2回「いのちを考える」プレスセミナーが開催された。そのなかで、武蔵野赤十字病院 院長の泉 並木氏は「慢性肝疾患の検査・治療に伴う様々なリスクをどう乗り越えるか」と題して、慢性肝疾患における血小板減少症に対する既存治療とムルプレタ(一般名:ルストロンボパグ)の登場による今後の展望について述べた。
慢性肝疾患における血小板減少症とその治療
慢性肝疾患では、造血因子であるトロンボポエチン(TPO)の産生低下や脾臓での血小板破壊亢進により、血小板が減少する。血小板が減少すると出血リスクが高まることから、ラジオ波焼灼療法(RFA)などの出血を伴う手技が制限されてしまうことがある。そのため、従来は部分的脾動脈塞栓術(PSE)、脾臓摘出、血小板輸血といった治療法によって血小板の補充が行われていた。なかでも侵襲性の低い血小板輸血が主に用いられているが、泉氏曰く、血小板輸血による医師の治療満足度は高くはない。さらに、血小板輸血ではアレルギーなどの副作用が懸念されるほか、保存方法や有効期間について厳密な管理方法が定められている。
血小板輸血による諸問題を解消する薬剤、ムルプレタの登場
そのようななか、経口投与(1日1回7日間)によって血小板産生を促進することのできる薬剤、ムルプレタが登場した。ムルプレタは、第III相臨床試験において血小板輸血回避率がプラセボと比較して有意に高く(ムルプレタ3mg群:79.2%、プラセボ群:12.5%、p<0.0001)、血小板数5万/μL以上の維持期間も有意に長いことが示された(ムルプレタ3mg・血小板輸血回避群:22.1日間、プラセボ・血小板輸血実施群:3.3日間、p<0.0001)。本薬剤は投与開始から血小板数の増加が認められるまでに数日を要することから、手技施行予定日の8~13日前を目安に投与を開始する。
血小板減少治療に“経口”という選択肢を
血小板減少は、慢性肝疾患の検査・治療の障壁となることもあり、その治療にはリスクが伴ってきた。そこに登場した、経口の血小板産生促進剤である「ムルプレタ」は、まさに待望の薬剤といえるだろう。
泉氏は、「血小板輸血を行わなくても、経口で血小板の産生が可能」とムルプレタの臨床的意義を強調した。高齢化により、ますます患者負担の少ない治療が求められていることからも、経口薬という選択肢の持つ可能性は大きい。血小板減少はほかの分野の疾患でも認められるため、慢性肝疾患だけでなく、今後の適応拡大も大いに期待される。
(ケアネット 細川 千鶴)