ビプレッソは「双極性障害のうつ症状」の新しい治療選択肢

提供元:ケアネット

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公開日:2017/11/13

 

 2017年11月7日、共和薬品工業株式会社主催のプレスセミナーが開催され、双極性障害治療の課題と双極性障害のうつ症状に対する新たな治療選択肢であるビプレッソ徐放錠(一般名:クエチアピンフマル酸塩徐放錠)について、赤坂クリニック・うつ治療センター長の坂元 薫氏が講演を行った。坂元氏は、「双極性障害を大うつ病エピソードで発症した場合、単極性うつ病との鑑別が困難で見逃されやすい。ようやく診断されても、日本うつ病学会のガイドライン1)で推奨されている双極性うつ病の薬剤は、ほとんどが適応外であった。ビプレッソ徐放錠が登場し、治療選択肢が増えたのは大変喜ばしいこと。双極性障害患者のうつ症状改善に期待したい」と述べた。

双極性障害は大うつ病性障害との鑑別が困難
 双極性障害はかつて、躁病エピソードと大うつ病エピソードの両方を伴う精神病性気分障害(現在の双極I型障害)とされていたが、近年の臨床研究により、完全な躁病エピソードの代わりに、より軽症で持続期間も短い軽躁病エピソードと大うつ病エピソードが入れ替わる双極II型障害の存在が広く認知され始めた。再発率と自殺率が著しく高く、社会機能の障害が著明となる。

 双極性障害を大うつ病エピソードで発症した場合、大うつ病性障害(単極性うつ病)との鑑別が困難であり、見逃されることが多い。双極性II型障害の患者は、軽躁病エピソード時に「いつもより調子がいい」と思うくらいで、生活に困難を感じない。そのため、医師に躁症状を訴えることもなく、大うつ病性障害と診断されたまま治療を受けることになる。このような状況では、正しい診断・治療に出会うまで発病から10年以上を要する患者も多いというのもうなずける。

「双極性障害のうつ症状」の適応を持つ薬剤は1剤しかなかった
 双極性障害の治療は、大うつ病性障害の治療とは大きく異なる。大うつ病性障害の治療の中心が抗うつ薬であるのに対し、双極性障害は、「躁症状の治療」、「うつ症状の治療」、「維持的予防」の3つのアプローチが必要である。気分安定薬をベース薬として、患者の症状にあわせて抗精神病薬を併用する。

 しかし、双極性障害の治療に用いられる薬剤は、「双極性障害(躁うつ病)における躁病・躁状態」に対する適応症を持つものがほとんどで、「双極性障害におけるうつ症状」に対する適応を持つのは、これまでオランザピン1剤のみであった。実際、日本うつ病学会のガイドライン1)における「双極性障害の大うつ病エピソード」の推奨薬剤には、クエチアピン、リチウム、ラモトリギンなどの薬剤が並んでいるが、オランザピン以外すべて適応外となっている。抗うつ薬はどうかというと、同じうつ症状でも大うつ病性障害に対するそれと異なり、躁転あるいは急速交代化のリスクがあるため適応がなく、慎重な投与が必要であるという。

ビプレッソ徐放錠は双極性障害におけるうつ症状を改善
 そのような中、ガイドラインでも高く推奨されていたクエチアピンが、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、医療上の必要性が高いと判断され、厚生労働省の要請2)に基づいて開発・承認された。そして、2017年10月27日、「双極性障害におけるうつ症状の改善」を効能・効果とする1日1回投与のビプレッソ徐放錠が発売となった。ビプレッソ徐放錠の有効成分は、統合失調症に用いる非定型抗精神病薬セロクエル錠(一般名:クエチアピンフマル酸塩)と同じであるが、適応症、用法・用量が異なるため、別名称で承認申請されたということである。承認時までの臨床試験では、投与1週目よりうつ症状の改善が認められ、投与52週目まで維持された3)。主な副作用は、傾眠、口渇、倦怠感、体重増加、アカシジア、便秘、血中プロラクチン増加であった。また、九州大学の三浦 智史氏らによるメタ解析4)では、双極性障害のうつ症状に対する再発予防効果は、ラモトリギン、リチウム、オランザピンよりもクエチアピンで高いことが示されている。

 双極性障害の治療は簡単ではない。しかし、今回のビプレッソ徐放錠の登場で治療選択肢が広がったことにより、双極性障害のうつ症状に苦しむ患者が少しでも減少することを期待するばかりである。

(ケアネット 武田 真貴子)

参考文献・参考サイトはこちら

2)平成22年12月13日医政研発1213第1号、薬食審査発1213第1号

3)社内報告書(双極性障害患者・第II/III相二重盲検比較試験)