近年、心不全のマーカーとして血中B型(脳性)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が広く使用されているが、腎不全患者ではあまり有用でないこともある。そこで、炎症や繊維化に関するバイオマーカーである可溶性ST2(soluble suppression of tumorigenesis-2)が予後予測や心不全の管理に使われることが増えている。その有用性について、イタリアのMichele Emdin氏らがJournal of American College of Cardiology誌2018年11月号に報告しているので紹介したい。
可溶性ST2は併存症の影響を受けにくい
慢性心不全の予後予測やリスクの層別化にさまざまなバイオマーカーが提唱されている。ACC/AHAのガイドラインでは予後の層別化にナトリウム利尿ペプチドとトロポニンがclass I、可溶性ST2などの心筋障害や繊維化のマーカーがClass IIbとして推奨されている。ナトリウム利尿ペプチドは主に心筋壁ストレス、血行動態機能を反映するが、トロポニンは進行中の心筋ストレスや傷害を反映する。可溶性ST2は炎症や前繊維化の経路と関連し、ナトリウム利尿ペプチドが抱えるバイオマーカーとしてのいくつかの問題点を回避できる。具体的には、可溶性ST2は年齢や性別、BMIおよび腎不全などの併存症による影響を受けにくい。本研究の目的は、可溶性ST2の慢性心不全の予後予測因子としての価値を評価することであった。
4,268例の心不全患者からデータを抽出
慢性心不全でのリスク予測因子として、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)と高感度トロポニンTと共に可溶性ST2を評価した研究から、個々の患者のデータを収集した。計4,268例が評価され、患者の年齢中央値は68歳、75%が男性で、65%が虚血性心不全、87%が左室駆出率(LVEF)40%未満であった。NT-proBNP、高感度トロポニンT、可溶性ST2はそれぞれ1,360ng/L (四分位範囲:513~3,222ng/L)、18ng/L(9~33ng/L)、そして27ng/L(20~39ng/L)であった。追跡期間中央値2.4年において、全死亡は1,319例(31%)、心臓血管関連死亡は932例(22%)であった。データが入手可能であった4,118例(96%)のうち、1,029例(24%)が少なくとも2.2年の間に1回以上心不全の増悪で入院した。可溶性ST2の全死亡、心臓血管関連死亡そして心不全による入院に対するカットオフ値は28ng/mLで、カプランマイヤー生存曲線でも良好な結果を示した(log-rank:117.6/61.0/88.6、 全てでp<0.001)。
可溶性ST2はほとんどのサブグループにおいて独立した予後予測因子
年齢、性別、BMI、虚血性心疾患、LVEF、NYHAクラス、糸球体濾過率、心不全に対する薬物療法、NT-proBNPそして高感度トロポニンTを含むモデルにおいて、可溶性ST2が2倍になるごとに全死亡、心臓血管関連死亡、心不全による入院がそれぞれ26%、25%、30%増えていた。可溶性ST2はほとんどのサブグループにおいて独立した予後予測因子であった。たった1回の可溶性ST2の測定は全死亡、心臓血管関連死亡、心不全による入院に対して、併存症や心不全の機序、左室機能、腎機能、NT-proBNP、高感度トロポニンTに関わらず予後の予測因子であった。
筆者らは慢性心不全患者において、可溶性ST2はNT-ProBNPと高感度トロポニンTと共にマーカーの1つとして考慮されるべきであると結論づけている。
(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)
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