植込み型の医療機器の感染は重大な結果へとつながりうる。心調律デバイスの場合、術前のセファゾリンが標準的な予防的抗菌薬であるが、デバイス感染症によくみられるメチシリン耐性グラム陽性球菌には有効でない。また、術中よく行われる抗菌薬によるポケット内の洗浄についても明確なエビデンスはない。この研究は、標準的なセファゾリンに加えて、周術期に抗菌薬を追加投与することの有効性を評価することを目的として行われた。なお、本研究のユニークな点は患者ではなく、施設ごとに無作為化を行っている点である。
Andrew D. Krahn氏らによるカナダとオランダで行われた多施設研究で、Journal of American College of Cardiology誌2018年12月号掲載の報告。
クラスター無作為化クロスオーバー試験で抗菌薬追加投与の有効性を検討
筆者らは各施設を6ヵ月ごと、4つの群に割り当てるクラスター無作為化クロスオーバー試験を行った。期間中、各施設ではすべての植込み型心臓デバイス手技に対して標準的な抗菌薬もしくは周術期の抗菌薬の追加投与が行われた。
標準的治療(セファゾリン術前投与) vs.追加抗菌薬の周術期投与
標準的治療群では術前にセファゾリンが投与され、 追加投与群では術前のセファゾリンに加えバンコマイシン、術中にバシトラシンによるポケット内洗浄、そして術後2日間の経口セファレキシンが投与された。主要評価項目は、ハイリスク患者群の1年間のデバイス感染に伴う入院で、階層ロジスティック回帰モデルにより評価され、無作為化クラスターとクラスター期間の影響が調整された。
追加投与により感染症減少傾向がみられたが、有意な差ではなかった
デバイス手技は28施設で1万9,603例の患者に行われ、そのうち1万2,842例はハイリスク患者であった。感染は標準的治療群で99例(1.03%)、追加投与群の78例(0.78%)で発生した (オッズ比: 0.77、95%信頼区間[CI]: 0.56~1.05、p=0.10) 。ハイリスク患者において、入院を伴う感染は標準的治療群で77例(1.23%)、追加投与群では66例(1.01%)で発生した(オッズ比: 0.82、95% CI: 0.59~1.15、p=0.26) 。サブグループ解析でも追加投与により有意に恩恵を受ける患者や施設の特徴は明らかにならなかった。
想定よりも感染症発生率が低く、有意差に結びつかず
追加投与群で感染の減少傾向がみられたが、全体の感染症発生率が想定していたよりも低く、統計的な有意差には結びつかなかった。 クラスタークロスオーバーデザインを用いることで、効率的に抗菌薬の追加投与の有効性を調べることが可能であった。
術前に投与するセファゾリンに追加して抗菌薬を投与することによる心調律デバイス感染症の有意な減少は認められなかったが、感染の減少傾向は認められた。しかしながら、抗菌薬の追加投与による心調律デバイス感染症が20%減少したとしても、全体の発生率が低いため、追加投与により防ぐことのできる感染症は500例に1例である。どのような症例が追加投与の恩恵を受けるかを、引き続き調べていく必要があると考えられる。
(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)
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