ヒス束ペーシングは心臓の再同期療法(CRT)の新しい手段として注目され、実臨床でも利用されている。本研究では、ヒス束ペーシングと従来行われてきた両心室ペーシングによるCRTを急性期のクロスオーバー試験で比較し、急性期の心室興奮と血行動態を計測した。Ahran D. Arnold氏らLondonのグループによるJournal of American College of Cardiology誌オンライン版12月18日号掲載の報告。
心不全と左脚ブロックを有する患者が対象
心不全と左脚ブロックを有し、従来の両心室ペーシングによるCRTが必要とされた患者が研究に組み入れられた。非侵襲的な心外膜の心電位画像化技術(ECGI)を用いて、ヒス束ペーシングにより左心室の興奮時間が短縮されている患者を同定した。これらの患者で、ヒス束ペーシングと両心室ペーシングによる血行動態に対する効果を、自然に起きる血行動態の変化やノイズの影響を抑えながら、複数回繰り返し測定し、同時に心室の興奮時間も測定した。
この研究では252極の検出電極を有する心電図ベスト(メドトロニック)を用いて、非侵襲的に心外膜の心電図イメージを作成している。なお、事前に低用量CTにより電極と心臓の位置を確認している。ヒス束ペーシングは一時的に行われ、大腿からは4極カテーテルで、鎖骨下静脈からはペーシングリードを用いて行われたが、リード先端のスクリューによる固定(active fixation)は行われていない。
ヒス束ペーシングは、急性期において心室興奮、血行動態ともにより改善
左室の興奮時間は、ヒス束ペーシングで23例中18例で有意に減少した(4例で左心室の興奮時間の有意な短縮はみられず、1例では心室の興奮時間が技術的な問題で得られなかった)。そして、17例で完全な電気および機械的収縮のデータが得られた。
これらの患者で、ヒス束ペーシングでは両心室ペーシングに比べてより有効な心室再同期を得ることができた[QRSの短縮:-18.6ms(95%信頼区間[CI]:-31.6~-5.7ms、p=0.007)、左室の興奮時間:-26ms(95%CI:-41~-21ms、p=0.002)、左室同期不全インデックス:-11.2ms(95%CI:—16.8~-5.6ms、p<0.001)]。
ヒス束ペーシングは、急性期の血圧もより上昇させた(4.6mmHg、95%CI:0.2~9.1mmHg、p=0.04)。また、両心室ペーシングと比較してヒス束ペーシングでは、興奮時間がより短縮するほど、血行動態の改善が見られていた(R=0.70、p=0.04)。
長期効果の確認には無作為比較試験が必要
ヒス束ペーシングは両心室ペーシングと比較して、心臓再同期においてより優れた効果を示し、血行動態のパラメーターにおいてもより良い改善が見られた。
この研究は急性期の血行動態を比較したものであり、急性期の興奮時間の短縮や血行動態の良好なレスポンスが、長期フォローアップ成績の向上につながるかはわからない。両心室ペーシングとヒス束ペーシングの無作為比較試験における長期フォローアップ後の成績が、この疑問の答えとなると考えられる。
(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)
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