中等度から重症の三尖弁閉鎖不全症の患者は米国では160万人以上おり、その予後は一般的に不良である。現在のACC/AHAガイドラインでも三尖弁閉鎖不全症に対する開心術は、重症で、症状があり、弁周囲の拡大と右心不全がある患者に推奨されているが、エビデンスは乏しい。
左心系の弁膜症のない孤発性の三尖弁閉鎖不全症患者に対しては、長い間保存的な薬物治療が行われてきた。この論文では、孤発性の三尖弁閉鎖不全症に対する外科的弁修復および弁置換の効果を検証している。米国・マサチューセッツ総合病院のJason H. Wasfy氏らによる、Journal of American College of Cardiology誌オンライン版5月3日号への報告。
心エコーのデータベースから3,276例の孤発性の三尖弁閉鎖不全症を解析
2001年11月から2016年3月までの心エコーの経時的なデータベースを用いて、3,276例の孤発性の三尖弁閉鎖不全症を有する患者を後ろ向きに解析した。開心術を受けた症例と受けなかった症例における全死亡率を、コホート全体およびプロペンシティスコアを用いてマッチングされたサンプルにおいて比較した。死亡バイアス(エコーで三尖弁閉鎖不全症の診断がついてから開心術を受けるまでの期間に死亡が発生しない)の可能性を評価するために、診断から手術までの時間を時間依存共変量として、解析が行われた。
三尖弁閉鎖不全症に対する弁修復・弁置換は予後を改善せず
3,276例の孤発性の重症三尖弁閉鎖不全症患者のうち、171例が三尖弁に対する手術を受け、143例(84%)が弁修復術、28例(16%)が弁置換術を受けていた。残りの3,105例(95%)には保存療法が行われていた。手術を時間依存性の共変量として考慮し、プロペンシティスコアをマッチングさせたサンプルと比較した結果、内科的に保存療法を受けた患者の全生存率は、開心術を受けた患者の全生存率と有意な違いは認められなかった(ハザード比 [HR]:1.34、95%信頼区間[CI]:0.78~2.30、p=0.288)。開心術を受けたサブグループにおいて、弁修復と弁置換を受けた患者間でも違いは認められなかった(HR:1.53、95% CI:0.74~3.17、p=0.254)。
孤発性の重症三尖弁閉鎖不全症患者において、生存バイアスを考慮した上で解析を行った結果、外科手術は内科的保存療法と比較して、長期の生存率を改善しなかった。
開心術について無作為化するのは困難であり、単施設の後ろ向き解析ではあるが、本解析は三尖弁閉鎖不全症に対する論文の中でも大規模なものと言える。ただ、プロペンシティスコアを用いてもさまざまなバイアスを排除するのは難しい。今後、カテーテルによる三尖弁閉鎖不全症に対する治療がより一般的になっていくと考えられ、三尖弁閉鎖不全症に対する侵襲的治療の効果を評価する前向き無作為化試験の実施が期待される。
(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)