加熱式タバコの一部のパンフレットには、購入者に対し、健康被害が大幅に低下するような“誤解”を与える表現で売り出している製品がある。しかし、これらの広告は規制されていない。これは一体なぜなのか。このからくりについて、2019年6月20日、日本動脈硬化学会主催のプレスセミナーで飯田 真美氏(岐阜県総合医療センター 副院長/日本動脈硬化学会 禁煙推進部会長)が解説。原 眞純氏(帝京大学医学部附属溝口病院 副院長/日本動脈硬化学会 禁煙推進部会員)は「タバコと動脈硬化」として、古くも新しい話題について講演した。
マイルド・ライトなタバコの小さな細工
タバコ煙は気体と粒子の混合物で、その中には5,300種類以上の化学物質、約70種類の発がん性物質(多環芳香族炭化水素など)が含まれる。燃焼式タバコにはマイルド・ライトなどと毒性の軽さをうたっている製品もあるが、タバコ葉1gに含まれるニコチンなどの実際量は、同系統の製品であればほぼ同じだという。ニコチン・タール量の国際的な測定法では、燃焼するタバコを機械で吸引し、その中のニコチン・タール含有量を測定する。旧来の製品にはフィルター部分に孔がないのに対し、マイルド・ライトなどの表記があるものにはフィルター根元に細かい小さな孔が空いているので、吸入時に外の空気が孔に入り込み、ニコチン・タール量が希釈される。その結果、測定量として小さい数値を箱に記載することができる。あたかもマイルド・ライトな燃焼式タバコを吸って健康を気遣っているようでも、「その人にとって必要なニコチン量が存在し、深く吸う、長く肺にためるなど、知らず知らずのうちに必要量を摂取している」と飯田氏は述べた。
加熱式タバコの実際の有害物質含有量
『有害性物質、約90%オフ』と書いてあるパンフレットの詳細を見ると、実は「“有害物質約90~95%オフ”、“9つの有害性物質を紙巻きタバコに比べて大幅に削減”の表現は、本製品の健康に及ぼす悪影響が他製品と比べて小さいことを意味するものではありません」などの逃げ道が書かれているという。誇大広告と捉えかねない製品も、こんな一言でうまく規制から逃れているのである。
では、実際の有害物質含有量はどうなのか。同氏が示した加熱式タバコ(IQOS)と紙巻タバコの研究結果
1)によると、IQOS1本あたりの有害物質の各成分量は、ホルムアルデヒド74%、アセトアルデヒド22%、ニコチン84%であった。一酸化炭素や二酸化炭素については、加熱式タバコにも少量含まれているが、燃焼していないため非常に少ない割合であった。
2019年5月、FDAは米国において加熱式タバコ(商品名:IQOS、フィリップモリス)の販売を許可。米国ではすでに新型タバコと呼ばれる種々の製品が販売されていたが、電気加熱式タバコ製品の販売許可はこれが初であった。これに対し、動脈硬化学会は「この承認は安全性を担保したものではない」と、前述の結果を踏まえてコメント。飯田氏も「加熱式タバコは、煙以外の何物でもない」と警告した。
加熱式タバコでは有害な成分が呼出されている
過去15年間にオリンピックが開催された都市でのタバコ規制をみると、法律、州法、市条例によって全面禁煙が定められている。しかし、2020年にオリンピックを控えた日本において、屋内施設100%完全禁煙に対する整備は発展途上である。原氏は、兵庫県神戸市での受動喫煙防止条例施行前後における急性冠症候群の発生数に関するデータ
2)を示し、「条例が施行される前後で発生患者数が年間895例から830例に減少した」と説明。また、「全世界の論文を分析したところ、禁煙に対する法律を規定する範囲(職場~レストラン~居酒屋・バー)が広くなるほど、受動喫煙率が低下し動脈硬化性疾患や呼吸器疾患が最大39%も減少した」とし、「動脈硬化性疾患の予防・治療には、受動喫煙を避けることが必須。正確な情報伝達・啓発が必要 」と訴えた。飯田氏は「自宅では紙巻きタバコ、外では加熱式タバコの両方を使用するデュアルユーザーも多く存在する。加熱式タバコであれば禁煙場所でも吸えると考えるユーザーも多いが、発がん性のある有害な成分が呼出されている」と、目に見えにくいリスクについても説明した。
日本はWHOタバコ規制枠組条約(FCTC)の締結国である。それにもかかわらず、完全禁煙はいまだ達成されていない。両氏はタバコ規制枠組条約に則った、日本での屋内完全禁煙の実現を強く求めた。
(ケアネット 土井 舞子)
1)Auer R, et al. JAMA Inter Med. 2017;177:1050-1052.
2)Sato Y, et al. Circ J. 2016;80:2528-2532.