新薬の登場やエビデンスの蓄積を受けて、約10年ぶりに「夜間頻尿診療ガイドライン」が改訂される。40代で約4割、80歳以上では9割以上でみられる夜間頻尿について、専門医だけでなく一般医に対する診療アルゴリズムを新たに作成し、クリニカルクエスチョン(CQ)を充実させる見通し。第26回日本排尿機能学会(9月12~14日、東京)で、「新・夜間頻尿診療ガイドライン:改定に向けての注目点」と題したセミナーが開催され、作成委員長を務める国立長寿医療研究センター泌尿器科の吉田 正貴氏らが解説した。
本稿では同セミナーのほか、鹿児島大学心臓血管・高血圧内科学の大石 充氏による「循環器疾患と夜間頻尿・多尿」と題した講演の内容を紹介する。改訂版は今後パブコメを含む最終調整を経て、2020年春の発行が予定されている。
新・夜間頻尿診療ガイドラインでは29のCQを初めて設定
夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという訴えと定義される。年齢とともに回数は急上昇し、回数が増えるごとにQOLは明らかに低下する
1)。本邦では、頻度2回以上の夜間頻尿は70代の男性の約6割(女性では約5割)、80歳以上では約8割(約7割)と報告されている
2)。夜間頻尿のリスク因子には糖尿病、高血圧、肥満などがあり、逆に夜間頻尿がうつ、転倒骨折、睡眠障害などのリスク因子となる。
新・夜間頻尿診療ガイドラインでは、排尿日誌を使用しない場合(主に一般医向け)と使用する場合(主に専門医向け)に分けて、フロー図の形で診療アルゴリズムを整理。新たに29個のCQを設定して、診断、行動療法、薬物療法についてそれぞれ推奨度が明記され、エビデンスが整理される。
夜間頻尿診療ガイドラインに弾性ストッキング使用の生活指導
新・夜間頻尿診療ガイドラインでは診断に関して、夜間頻尿患者に対する排尿記録やQOL評価、残尿測定、尿流動態検査、睡眠障害の検査についてそれぞれCQが設定され、推奨度のほか評価時期や評価手法が解説される。また、泌尿器科、循環器科、睡眠障害専門医への紹介のタイミングや保険診療上の注意点についてもCQが設けられ、アルゴリズムと組み合わせて診断・鑑別が進められるよう構成される。
行動療法に関しては、生活指導(飲水に関する指導、運動療法、禁煙、弾性ストッキング使用、夕方の足の挙上など)と行動療法(生活指導以外)を区別する形でCQを設定。エビデンスは十分ではないものの、非侵襲的であり、生活指導が夜間頻尿治療の第一選択であることは従来どおり。一方の行動療法(生活指導以外)については、過活動膀胱(OAB)の場合は膀胱訓練や定時排尿などの計画療法や、骨盤底筋訓練などの理学療法の有用性が報告され、OABのガイドラインでも推奨されているが
3)、睡眠障害を伴った夜間頻尿では有用性のエビデンスは明確でない。
新・夜間頻尿診療ガイドラインでのデスモプレシンの位置付けは?
新・夜間頻尿診療ガイドラインでは薬物療法に関して、夜間多尿(夜間多尿指数[夜間尿量/24時間尿量]が高齢者:0.33以上、若年者:0.20以上)の有無、原因疾患(OAB、前立腺肥大症)に応じて選択される。2019年9月19日、「男性における夜間多尿による夜間頻尿」の適応症でV2受容体作動薬デスモプレシンが発売された。エビデンスが充実しており、男性では生活指導および行動療法による効果が得られない患者への第一選択薬として、推奨グレードAとされる見通し。
ただし、同薬の本邦での適応は「夜間多尿指数0.33以上、かつ夜間排尿回数が2回以上」に限定され(排尿日誌の記録が必須)、低ナトリウム血症や心不全の患者、中等度以上の腎機能障害の患者、利尿薬の併用などは禁忌とされる。また、65歳以上で低ナトリウム血症や頭痛などの有害事象が報告されており、年齢・体重・血清ナトリウム値に応じた少量開始、定期的な検査や観察が推奨されるなど、適正使用への留意が必要となっている。
OABや前立腺肥大症に伴う夜間頻尿にも、10年間で新薬やエビデンス蓄積
この10年で、OABに対して抗コリン薬のオキソブチニン貼付剤とフェソテロジン、β3受容体作動薬(ミラベグロン、ビベグロン)が新たに処方可能となっている。各薬剤での夜間頻尿に関するエビデンスも蓄積し、抗コリン薬では前回エビデンスが不十分であったイミダフェナシンで前向き臨床試験が最も多く報告され、夜間排尿回数の減少と夜間1回排尿量の増加、睡眠の質の向上などが確認されている。しかし、OABに関係する夜間頻尿には有効であるが、夜間多尿群では十分な効果が得られない薬剤もある。
ミラベグロンはOABに対するエビデンスが多く蓄積しているものの、夜間頻尿患者に対する第III相試験のpost-hoc解析は行われていない。2018年発売のビベグロンについては本邦で行われた第III相試験から、夜間頻尿患者での回数の減少と夜間1回排尿量の増加が確認されている4)。
前立腺肥大症に伴う症例に対しては、PDE5阻害薬タダラフィルが新たに承認され、前回評価不能だったα1遮断薬シロドシンなどについてエビデンスが蓄積。また、本邦発のGood-Night Studyで、α1遮断薬単独で改善のない夜間排尿2回以上の患者に対する、抗コリン薬(イミダフェナシン)併用の有効性が示されており
5)、新たなエビデンスとして加わっている。
利尿薬は併存する循環器疾患によって使い分けが必要?
夜間多尿に伴う夜間頻尿、とくにデスモプレシンが使えない女性では、利尿薬が選択肢となる。大石氏は、夜間頻尿診療ガイドライン改訂にあたって実施したシステマティックレビューの結果などから、高血圧と心不全の併存患者における利尿薬の使い方について講演した。
利尿薬×夜間頻尿というキーワードで論文検索を行うと、ループ利尿薬についてはとくにhANP高値例
6)や就寝6時間前投与
7-9)が有効、サイアザイド系利尿薬についてはα遮断薬抵抗性例に朝投与が有効
10)といった報告が確認された。一方で、ループ利尿薬が夜間頻尿を悪化させる
11)、高齢者での夜間頻尿を惹起する
12)といった報告や、サイアザイド系が排尿症状を悪化させる
11)という報告もある。
これらを受け大石氏は、併存する循環器疾患ごとに、夜間頻尿となるメカニズムが異なる可能性を指摘。食塩感受性高血圧患者では、日中の食塩摂取量が過多になると、夜間高血圧となり、塩分排泄のキャリーオーバーで夜間多尿や夜間頻尿につながると考えられる。ループ利尿薬は近位部で作用(水抜き)することから、このような症例で多量に使うとNa+貯留が起こる可能性があり、遠位尿細管で作用(塩抜き)するサイアザイド系が適しているのではないかとした。
一方、うっ血性心不全患者の夜間頻尿は、心臓の機能が落ちることで静脈還流が増加し、臥位になった夜間に水を抜かなければならないことから引き起こされる。すなわち、ループ利尿薬で体液調整をすることでコントロール可能となると考えられるという。会場からは、「女性の食塩感受性高血圧患者の夜間頻尿ではサイアザイド系と考えてよいか」といった質問があがり、同氏は「女性では浮腫がある症例も多い。そういった場合はもちろん水分を抜くことも必要で、必要な薬剤の量を見極めながら、病態に応じて選択・併用していく形が望ましく、循環器医と積極的に連携してほしい」と話した。
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■参考
1)Coyne KS, et al. BJU Int. 2003 Dec;92:948-54.
2)Homma Y, et al. Urology. 2006 Aug;68:318-23.
3)日本排尿機能学会過活動膀胱診療ガイドライン作成委員会編. 過活動膀胱診療ガイドライン 第2版.リッチヒルメディカル.2015.
4)Yoshida, et al. Int J Urol. 2019 Mar;26:369-375.
5)Yokoyama O, et al. World J Urol. 2015 May;33:659-67.
6)Fujikawa K, et al. Scand J Urol Nephrol. 2001 Sep;35:310-3.
7)Pedersen PA, et al. Br J Urol. 1988 Aug;62:145-7.
8)Reynard JM, et al. Br J Urol. 1998 Feb;81:215-8.
9)Fu FG, et al. Neurourol Urodyn. 2011 Mar;30(3):312-6.
10)Cho MC, et al. Urology. 2009 Mar;73(3):549-53.
11)Hall SA, et al. BJU Int. 2012 Jun;109:1676-84.
12)Johnson TM 2nd, et al. J Am Geriatr Soc. 2005 Jun;53:1011-6.
(ケアネット 遊佐 なつみ)