10月15日、特定非営利活動法人日本高血圧学会(JSH)は、10月25-27日に開催される第42回日本高血圧学会総会に先立ち、プレスセミナーを開催した。
冒頭に、理事長の伊藤 裕氏が、台風19号による甚大な被害を踏まえ、学会としての対応を発表した。「甚大な被害が広範囲に広がり、避難生活が長引く被災者も多くなると考えられる。ストレスや血圧の管理が不十分となり、いわゆる『災害高血圧』が生じて、脳卒中や心疾患につながることを懸念している」と述べた。最初の対応としては、被災地の高血圧患者から多く寄せられる質問と回答をまとめ「台風19号により被害を受けられた皆さまへ」と題して学会サイトに発表した。もう一つ、気づかれにくい問題として、支援物資について注意喚起を求めた。「今回の台風は物流の問題は限られ、薬不足は回避できそうだ。問題は食料で、被災地に送られる支援物資は調理の簡単なカップラーメンやパンなどに偏り、塩分過多と高血圧につながりがち。送る方は減塩食品を選ぶなどの配慮をして欲しい」と訴えた。今後も被災者に向け、即時性をもって情報を発信していく、とした。
「早期介入」「精密医療」「モデルタウン」を柱に活動
続いて、学会の最新の活動内容が発表された。世界保健機構(WHO)による健康調査で提唱される「疾患負荷(disease burden:経済的コスト、死亡率、疾病率で計算される特定の健康問題の指標)」において、高血圧の死亡への寄与割合は女性で1位、男性で喫煙に次いで2位と非常に大きい。一方で、日本国内の高血圧患者は4300万人を超えるものの、きちんと疾病コントロールがされているのは3割の1300万人程度に満たない。この状況を踏まえ、JSHは2018年に「高血圧の国民を10年間で700万人減らし、健康寿命を延ばす」との声明を発表している。今後の具体的な活動としては、以下の3点を重点施策とした。
1)2019年4月に新「高血圧治療ガイドライン」を刊行。診断基準値は従来通りとしものの降圧目標を引き下げ、早期からの生活習慣への介入を呼びかける。
2)デジタルデバイス等を利用し、ビッグデータやAIによる「プレシジョンメディシン(精密医療)」を高血圧対策に応用する研究を進める。
3)患者個人だけではなく、家族や地域、自治体を含めた規模で対策をとることが重要とする「集団健康管理」の考えのもと、協力自治体を募り、学校教育や企業への働きかけを行っている「モデルタウン」事業を行う。
2019年日本高血圧学会総会の概要発表
10月25-27日に東京・新宿で開催される
第42回日本高血圧学会総会は、テーマを「未来を支える血圧管理」とし、総会の開会式では「JSH東京減塩宣言」が行われる予定。310の一般演題(口演177・ポスター133)のほか、カリフォルニア大学教授Theodore W. Kurtz 氏による「食塩感受性高血圧」をはじめとした特別講演、シンポジウム、市民公開講座などが予定される。さらに「デジタルハイパーテンションカンファレンス」と題し、ビッグデータ・ICT・AI等の技術を高血圧対策にどうつなげていくか=高血圧の精密医療について議論も行われる。
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(ケアネット 杉崎 真名)