「ワクチン忌避」への対応と医療者教育の重要性/日本ワクチン学会

提供元:ケアネット

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公開日:2019/12/19

 

 「ワクチンの有効性・安全性に疑いを持つ人が接種を控える動き(ワクチン忌避)」が世界的に広がりを見せている。世界保健機関(WHO)は2019年に発表した「世界の健康に対する10の脅威」の1つとして「ワクチン忌避」を挙げている。日本においてもHPVワクチンの接種推奨が停止され、再開を求める医療者の声にもかかわらずいまだ果たされていない、等の現状がある。

 11月30日~12月1日に開催された「第23回日本ワクチン学会学術集会」では、このワクチン忌避への危機感と対応策が大きなテーマの一つとなった。

ワクチン忌避対抗の第一歩はデータ収集から
 シンポジウム「予防接種の教育啓発」では、国立感染症研究所・感染症疫学センターの砂川 富正氏が「国内外のVaccine hesitancyに関する状況」と題した講演を行った。砂川氏は「Vaccine hesitancy(ワクチン忌避)」に関連すると思われる報告が増加しており、「ある自治体における予防接種歴と百日咳に罹患した児の年齢分布を示すデータを見たところ、2~5歳と年齢が上がっても接種歴の無い児が含まれていた。ワクチンを受けさせない方針の保護者のコミュニティーができ、流行の一部となった疑いがある」と懸念を呈した。

 2019年に報告数が急増し、学会でも大きなトピックスとなった麻しんについて「予防接種を受けていない10~20代の患者が30人以上出た、という事例を大きな衝撃を持って受け止めた。ワクチン接種率が90%を超える地域でも、ワクチンに否定的な医師に賛同する保護者のコミュニティなどができ、未接種者が固まって居住しているなどの条件が揃えば、一定規模の流行を生みかねない」と危機感を示した。こうした状況を踏まえ、自治体の予防接種担当者から保護者とのコミュニケーションについてアドバイスを求められることも増えている、という。

 ワクチン忌避の動きは世界中で見られ、ブラジル、バルカン半島などで問題が顕在していることが報告されており、バルカン半島に位置するモンテネグロではワクチン反対派の運動で麻しん含有ワクチンの接種率が5割まで低下したという事例も報告された。科学誌Natureが、日本ではワクチン安全性への懸念が世界で最も高いレベルにあるとの風潮をニュース記事として取り上げるなど、日本は先進国の中でもワクチンを用いた取り組みが容易でない国として注視されている。

 砂川氏は、「米国のようにワクチン忌避に関する定量調査でデータを蓄積し、分析と対応を行っていくことが急務」とまとめた。

米国を参考に医療者向け教育プログラムを作成
 続けて、同じく国立感染症研究所・感染症疫学センターの神谷 元氏が「予防接種従事者への教育の重要性」と題した講演を行った。

 神谷氏は「定期接種・任意接種の問題はあるが、現在では国内で28種類のワクチンを受けられるようになり、海外との差を示すいわゆる『ワクチンギャップ』は数字の上では解消しつつある」と述べたうえで、「ワクチン忌避には歴史的・文化的背景があり、世界的に有効な手段は限られるが、その中で確実に有効性が証明されているのが『医療者への教育』であり、真のギャップをなくす手段である」と述べた。

 そして、自身の留学時に経験した、米国疾病予防管理センター(CDC)とサンディエゴ郡保健局予防接種課の取り組みを紹介。CDCではACIP(Advisory Committee on Immunization Practices)という外部の専門家集団と連携し、ワクチンに関連したエビデンスを検証し、ルール化する作業を常時行っている。ACIPの助言を基に決定したワクチンに関するルールは、全米の関係者・関係機関に通達され、患者からの問い合わせに対して全員が同じ回答ができることが信頼性につながっていると説明。また、米国には小学校入学前にワクチン接種を促す「School Law」と呼ばれるルールがあり、接種させない保護者にはペナルティが課されるという。

 サンディエゴ郡保健局では、ワクチンに関するオンライン教育システムを用意し、担当地域の小児科・プライマリケアのレジデント全員に受講義務を課している。学習内容は臨床に即した実践的なロールプレイングを行うチーム学習プログラムであり、患児の予防接種歴確認の重要性などを体感できる。さらに、保健局はクリニックに対して担当地域の予防接種率のデータをフィードバックしており、「2回目の接種率は90%だが、3回目は70%に落ちている」等の実際のデータを見せることで、医師に対してワクチン接種を促す意識付けを図っている。こうしたさまざまな取り組みによって、サンディエゴ郡の予防接種率は全米トップクラスを達成、維持している。

 同保健局の取り組みをヒントに、神谷氏は有志とともに医療従事者向けにワクチン知識を深めるためのオンライン講座を作成。医師向けに続き、看護師や事務員版についてもトライアルを進めているという。

(ケアネット 杉崎 真名)