日本精神神経学会は、新型コロナウイルス感染症に関連し、学会員を主な対象としたメンタルヘルス関連の提言を行っている。これまでに出された提言は以下の3つ。
1)親子・学校・女性のメンタルヘルスのサポート役割を担う学会員向け
2)働く人のメンタルヘルスケアや産業保健体制に関する提言
3)「コロナ関連自殺」予防について
精神科・心療内科を専門とする学会員に向け、新型コロナウイルス感染症がメンタルヘルスにおよぼす影響や、診療にあたっての注意点をまとめている。産業医として企業に対して感染予防対策や新しい働き方に関連するアドバイスをする際に役立つ内容も多い。「メンタルヘルスの専門家として今知っておくべきこと」を中心にまとめられているが、提言には「医療者自身のメンタルヘルスをいかに保つか」という内容も多く含まれている。
2)の提言内では「特に医療や介護現場などではメンタルヘルス不調の発生が強く危惧される」とし、個人防護服(PPE)を着たままの診療による身体的疲労や緊張の継続による精神的疲労の双方が懸念され、さらに新型コロナの専門病棟ではこれら疲労に加え、対応人員不足やPPE不足などへの危惧が継続的に発生している、と指摘。「当初は責任感や緊張感から普通に勤務できているように見えていても、対応期間が長引くにしたがい心身の疲弊症状として、抑うつ症状などの精神症状や不眠や頭痛などの身体化症状が顕在化」する、と警告している。こうしたメンタルヘルス不調を念頭に置いた産業保健活動が求められるが、そうした体制の確立が難しい小規模事業者などに対しては、早期から行政が介入・支援することが必要だ、と訴えている。
3)の提言内でも「このたびの感染防止対応は、ほとんどの医療スタッフにとって通常経験したことのない、複雑に絡み合う複数のストレス要素を伴っています。心身の不調が起きるのが当然といえば当然です。(略)会員の皆様も、精神医学やメンタルヘルスに精通しているからといって例外ではないのだということを忘れないでください」と注意を促している。
会員アンケートでもストレス傾向が明らかに
2020年5月中旬、ケアネットが医師会員1,000人を対象に行ったメンタルヘルスをテーマにしたアンケート(
新型コロナは日常診療にどう影響?勤務医1,000人に聞いたストレス・悩みの理由)からも、医療者が大きなストレス下に置かれていることが明らかになった。「COVID-19感染リスクに自身・スタッフがさらされることに不安を覚える」と答えた回答者は57.4%と6割近く、「COVID-19感染リスクに自身・スタッフがさらされることに不安を覚える」(57.4%)、「学会や勉強会などの直接的なコミュニケーションの機会が失われた」(55.6%)といった回答も半数を超えた。
医療現場のストレスマネジメントに詳しい国際医療福祉大学大学院 心療内科学教授の中尾 睦宏氏は、この結果を踏まえ、専門家の立場からアドバイスを寄せた。「アンケートには『臨床心理士を配置した』『メンタル相談の専門窓口を設けた』といった回答が寄せられており、医療現場の素早い対応は評価できる。しかし、医療者には責任感が強く、弱音を吐くことが苦手な人も多い。オンラインのミーティングや勉強会などの正しい情報共有に加え、カジュアルなコミュニケーションや愚痴を吐き出しやすい環境づくりが長期的なメンタルヘルス対策につながるはず」と述べている。
【会員医師アンケート】新型コロナは日常診療にどう影響?1,000人に聞いたストレス・悩み
【アンケート結果を解説】今、医療者が知るべき・やるべきメンタル対策
(ケアネット 杉崎 真名)