各地で新型コロナ感染症の新規感染者数の増加が止まらない。7~8月にかけてのピーク時を超え、間違いなく現状は「第3波」の真っただ中にある。自治体独自の基準により「非常事態」を宣言している大阪府の状況について、CareNet.com連載執筆者の倉原 優氏(近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)が緊急寄稿した。
大阪府コロナ第3波の現状
大阪府は、現在コロナ第3波の最終局面であると信じたいくらい新規入院患者数が増えている。指定感染症として診療しているので、必然的に病床が逼迫している。政府は12月17日、向こう1年間は現行の指定感染症扱いを継続するという見通しを発表した。医療者の一部にも、「5類感染症に変えるべき」という意見もある。ただ、COVID-19を5類感染症にすることにより、複数の病院で分散して診療されるようになり、追跡されない水面下で感染者が激増するため、医療崩壊への道をたどることになるのではという懸念がある。
大阪府は現状、重症病床以外を軽症中等症病床という枠組みで運用しているが、医療施設によっては、ほぼ軽症しか診なくなっていたり、当院のようにほぼ中等症病床化していたりする施設もある。普段から高齢者を多く診ている施設には、基礎疾患がある寝たきりの症例を担当してもらい、当院のような急性期病院には少し重症寄りの症例を担当してもらおう、という暗黙の住み分けはあるかもしれない。
重症化の予測は可能か
パンデミック当初から、重症化指標として、フェリチン・CRP・リンパ球数が報告されていた。軽症例が少ない当院では、6~7人に1人が重症化(高流量鼻カニュラ酸素療法[HFNC] or 気管挿管 or 死亡)しているが、後ろ向きにデータを取ると、いろいろなことが見えてきた(2020年11月までの約120人で検討)。
COVID-19患者のリンパ球絶対数は、おおむね1,000/μL前後で、重症化例で際立って低いという印象はない。圧倒的に差があるのがCRPで、非重症化症例の中央値が3.7mg/dL(IQR:1.0~7.6)、重症化症例の中央値は11.0mg/dL(IQR:7.1~15.3)だった(p<0.001)。フェリチンも、非重症化323.1ng/mL(IQR:114.1~840.8)、重症化787.5ng/mL(IQR:699.9~1407.3)と約2倍の開きがある(p=0.002)。これらが高い患者は、中等症病床から重症病床へ転院する可能性が高いと言える。ASTとALTについては、正常上限を10 IU/Lほど上回っていることが多く、その理由として胆管細胞にACE2があるからという説が有力だという。時に150~200 IU/L近くまで上昇しているケースがあり、そういう場合抗ウイルス薬はなかなか使いづらい印象である。また、呼吸器専門施設ということで、当院ではKL-6を多くの症例で測定しているが、非重症例250U/mL(IQR:190.8~337.8)、重症例333.5U/mL(IQR:261.0~554.1)と、重症例でII型肺胞上皮細胞の傷害が強いことがわかる(p=0.04)。
重症化した患者さんは全例、「両肺全葉」に肺炎像があった。含気が1葉か2葉に残っていれば気管挿管は回避できるかもしれないが、全葉が侵されていると換気する肺胞がなく、呼吸不全から気管挿管に至るということである。「入院時の胸部画像検査を見たとき、医師がゾっとするほど陰影が多い」という現象は、もしかしたら重症化の一番のリスク因子かもしれない。
治療と気管挿管
抗ウイルス薬については、軽症~中等症Iでファビピラビル、中等症I~重症でレムデシビルを使うことが多いが、発症早期にこれらを投与して効果があるかどうかは、臨床で実感できない。理論的には効果があると信じているが、現状「投与しない」という選択肢はほぼない状況である(投与していない施設もあると聞くが)。
SpO
2が低め(94%未満)あるいはすりガラス陰影(GGO)主体のフレッシュなCOVID-19の肺炎には、デキサメタゾンを積極的に使用しているが、それが急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に進展するのを抑制しているのかどうか、これも実感があるとは言い難い。入院時に広範囲にGGOがあるシビアなARDSでは、ステロイドパルス療法を適用して、早い段階で気管挿管に踏み切っている。エアロゾルボックスの使用は、ハードウェアを介した接触感染のリスクがあるため、いまだ議論の余地がある。また、RSI(rapid sequence induction)の技術を持っている医師が院内に常時いるわけではないので、当院では呼吸器センターの強みを生かした
気管支鏡を用いた気管挿管を行うことも多い。咳嗽によって術者に飛沫が飛ばないというメリットがあるが、内視鏡なので洗浄が煩雑である。
気管挿管した場合、大阪府では重症病床に転院することになる。大阪府コロナ重症センターが稼働したとはいえ、実運用ベースでの病床使用率は75%を超えているので、転院してから数日後に抜管され、再び中等症病床に戻ってくるというケースが多くなっている。今後、患者数がさらに増えてくれば、中等症病床においても重症患者を診るケースが増えることを覚悟している。
【倉原 優氏プロフィール】
2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て、08年より現職。CareNet.comでは、「
Dr. 倉原の“おどろき”医学論文」「
Dr.倉原の“俺の本棚”」連載掲載中。
(編集・構成/ケアネット 鄭 優子)