新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者での血栓症が世界的に報告されている。日本国内でもその状況を把握するために種々のアンケート1)2)が実施されてきたが、発症率や未診断症例(under-diagnosis)に関する詳細は不明であった。そこで、京都大学の山下 侑吾氏らは画像診断症例を対象にCOVID-19症例の静脈血栓塞栓症(VTE)発症の実態を正確に調査するレジストリ研究を実施した。その結果、以下4点が明らかになった。
1)国内の現実臨床では、COVID-19症例に造影CT検査が実施される事はかなり少数だった。
2)VTE発症について、軽症例では一例も認めなかったが、重症例では比較的高率だった。
3)VTE発症例では、肥満やCOVID-19重症例の割合が多かった。
4)VTE発症例と非発症例の生存退院の割合には有意差を認めなかった。また、肺塞栓症の重症度はすべて軽症だった。
この報告はCirculation Journal誌2021年5月20日号オンライン版に掲載された。
研究概要と結果
本研究は、日本静脈学会および肺塞栓症研究会の有志「日本でのVTEとCOVID-19の実態調査タスクフォース」によって実施された医師主導の多施設共同の後ろ向き観察研究である。対象者は2020年3~10月に参加施設22件において、PCR検査でCOVID-19と確定診断された症例の中から、胸部を含む造影CT検査が実施された患者1,236例。
主な結果は以下のとおり。
・COVID-19症例の中で、造影CT検査が実施されていたのは45例(3.6%)だった。
・そのうちの28例(62%)では、VTE発症を疑い造影CTが撮像されたていたが、残りの症例は別目的での撮像であった。
・45例のうちVTEを認めたのは10例だった。COVID-19の重症度別では、軽症は0%、中等症は11.8%、重症は40.0%だった。
・VTE発症例は非発症例と比較して、過体重(81.6kg vs. 64.0kg、p=0.005)かつBMI高値(26.9 kg/m2 vs. 23.2kg/m2、p=0.04)であり、人工呼吸器やECMOを要するような重症例の割合が有意に高かった(80.0%vs. 34.3%)。
・一方、VTE発症例と非発症例で、退院時の生存割合に有意な差は認められなかった(80.0%vs. 88.6%)。
・45例のうち30例(66.7%)には抗凝固薬が投与されていた(予防用量の未分画ヘパリン:46.7%、治療用量の未分画ヘパリン:30.0%、低分子ヘパリン:13.3%)。
・VTE発症例において、入院からVTE診断までの日数の中央値は18日であり、50.0%の患者はICU入室中に診断された。残り50%の患者は一般病棟入室中に診断されていた。
・8例(17.8%)に肺塞栓症を認めたが、肺塞栓症の重症度はすべて軽症例であった。しかし、5例(11.1%)に大出血イベントを認めていた。
研究者らは、「海外では、予防的な抗凝固療法の実施に関して、適切な対象患者、抗凝固療法の種類と強度、および投与期間などを検討するさまざまな報告が相次いでいる。日本の現場でも、画像診断の可否を含めどのように対応すべきか議論を進めていくことが重要と考えられる」と考察している。
(ケアネット 土井 舞子)