正常な老化と認知症による認知機能の変化に関してその根底にあるメカニズムを解明するためには、脳ネットワークの空間的関係とそのレジリエンスのメカニズムを理解する必要がある。藤田医科大学の渡辺 宏久氏らは、正常な老化と初期認知症における脳ネットワークの特徴について報告を行った。Frontiers in Aging Neuroscience誌2021年11月22日号の報告。
主な内容は以下のとおり。
・異種感覚統合(multisensory integration)やデフォルト・モード・ネットワークなどの脳のハブ領域は、ネットワーク内およびネットワーク間の伝達において重要であり、老化の過程においても良好に維持され、これは代謝プロセスにおいても重要な役割を担っている。
・一方、これらの脳のハブ領域は、アルツハイマー病などの神経変性認知症の病変に影響を及ぼす部位である。
・聴覚、視覚、感覚運動のネットワークなどに問題が生じた一次情報処理ネットワークは、異種感覚統合ネットワークの過活動や認知症を引き起こす病理学的タンパク質の蓄積につながる可能性がある。
・細胞レベルでは、脳のハブ領域には多数のシナプスが含まれており、大量のエネルギーが必要となる。
・これらの領域では、ATP関連の遺伝子発現が多くみられ、PETで示されているように高いグルコース代謝が認められる。
・重要なのは、ATP産生の中心にあるミトコンドリアの数とその機能が、10年ごとに約8%減少するということである。
・認知症患者は、多くの場合大量のATPを必要とするユビキチン・プロテアソームおよびオートファジー・リソソームシステムの機能障害を有している。
・エネルギーの供給が低いにもかかわらず需要が高い場合には、疾患リスクが上昇する可能性がある。
・エネルギーの供給と需要のバランスが悪いと、病的なタンパク質の蓄積を誘発し、認知症発症に重大な影響を及ぼす可能性がある。
・脳のハブ領域における認知症リスクの脆弱性は、このエネルギーバランスの不均衡により説明可能であると考えられる。
(鷹野 敦夫)