COVID-19パンデミックは、世界中の医療スタッフ、とくにCOVID-19陽性患者を受け入れる病院スタッフにとって、これまでにない問題を引き起こしている。日本政府によるCOVID-19に伴う診療抑制などの発表は、院内ケアに対するさまざまな制限をもたらしており、認知症高齢者への身体拘束の増加を含むケアに影響を及ぼしている可能性がある。しかし、COVID-19パンデミック時の身体拘束への影響を経験的に検証した研究は、ほとんどない。京都大学の奥野 琢也氏らは、COVID-19パンデミックによる診療規制の変更が、急性期病院の認知症高齢者の身体拘束に及ぼす影響について評価を行った。PLOS ONE誌2021年11月22日号の報告。
2019年1月6日~2020年7月4日に急性期病院で認知症ケアを受けた65歳以上の高齢者のデータを抽出し、レトロスペクティブ研究を実施した。COVID-19陽性患者を受け入れた病院に入院したかに応じて、患者を2群に分類した。身体拘束における変化を検証するため、記述統計を算出して2週間間隔で傾向を比較し、分割時系列分析を実施した。
主な結果は以下のとおり。
・日本政府発表後、COVID-19陽性患者を受け入れた病院では、入院患者1,000人当たりの身体拘束実施率が増加していた。最大実施率は、発表後73~74週時の入院患者1,000人当たり501.4人であった。
・COVID-19陽性患者を受け入れた病院では、認知症高齢者に対する身体拘束実施率の有意な増加が認められた(p=0.004)。
・パーソナルケアを必要とする認知症高齢者は、COVID-19パンデミック時における身体拘束実施率の有意な増加が認められた。
著者らは「認知症患者に対する身体拘束実施率の増加の根底にある原因やメカニズムを理解することは、今後同じような状況に直面した際の効果的なケアプログラムの設計に役立つであろう」としている。
(鷹野 敦夫)