抗菌縫合糸の使用でSSI発生率低減~日本人大腸がん患者での大規模研究

提供元:ケアネット

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公開日:2022/07/04

 

 外科手術後の閉鎖創におけるトリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸と非コーティング糸とを比較した手術部位感染症(SSI)予防効果について、ランダム化比較試験やメタ解析などでその有用性について検討されてはいるが、各種ガイドラインでも条件付き推奨でとどまるものが多い。大阪大学の三吉 範克氏ら大阪大学消化器外科共同研究会大腸疾患分科会は、開腹/腹腔鏡下大腸がん手術における予防効果を評価するため、多施設共同前向き研究を実施。Journal of the American College of Surgeons誌2022年6月号に報告した。

抗菌縫合糸の使用はSSIの発生を2.53%減少し有意な効果

・対象:大腸がん(CRC)に対する待機的手術を受けた20 歳以上の患者
・治療:切開後の腹部筋膜閉鎖にトリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸もしくは非コーティング縫合糸を使用
・主要評価項目:SSI発生率
・副次評価項目:入院期間、外科的合併症の発生率

 トリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸の手術部位感染症予防効果を評価した主な結果は以下のとおり。

・2016年7月22日~2019年7月16日に国内24施設から2,207例の患者が組み入れられ、適格基準を満たした患者に対し、傾向スコアマッチングの手法を用いて2:1の割合で抗菌縫合糸群に926例、非抗菌縫合糸群に653例が割り付けられた。
・ベースライン時点での年齢中央値は両群で68歳、術式は抗菌糸縫合群で腹腔鏡93%/ロボット支援4%/開腹3%、非抗菌縫合糸群で腹腔鏡96%/ロボット支援2%/開腹2%だった。
・主要評価項目のSSI発生率は、抗菌縫合糸群で4.21%、非抗菌縫合糸群6.74%だった(p=0.028)。
・重篤な有害事象の発生は報告されなかった。
・ロジスティック回帰分析により、いくつかの因子がSSI発生に影響することが示された:抗菌縫合糸(オッズ比[OR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.40~0.99、p=0.046)、糖尿病(OR:1.81、95%CI:1.07~3.07、p=0.026)、白血球数(OR:1.14、95%CI:1.01~1.28、p=0.046)、手術時間(OR:1.64、95%CI:1.01~2.67、p=0.046)、術中合併症(OR:6.06、95%CI:1.03~35.75、p=0.047)。
・副次評価項目である入院期間と外科的合併症の発生率は、両群間で統計学的な差はみられなかった。
・6つの第III相試験を含む4,797例に今回の研究を含めたメタ解析の結果、非抗菌縫合糸と比較したトリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸はSSI予防において有意な優越性を示した(OR:0.71、95%CI:0.53~0.95、p=0.0195)。

 著者らは、全体のSSI発生率は5.55%であり、SSIが依然として一般的で未解決な課題であることが示唆されたとしたうえで、トリクロサンコーティングによる抗菌縫合糸の使用はSSIの発生を2.53%減少し、有意な効果を示したと結論付けている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)