全粒粉穀物がもたらす身体への効果/日本糖尿病学会

提供元:ケアネット

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公開日:2022/08/05

 

 5月12日~14日まで神戸市で「第65回 日本糖尿病学会年次学術集会」(会長:小川 渉氏[神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授])が「知の輝きと技の高みへ」をテーマに開催された。

 本稿では「シンポジウム 糖尿病食事療法研究の最前線」より「穀物由来の食物繊維の生活習慣病予防効果」(青江 誠一郎氏 [大妻女子大学家政学部食物学科])をお届けする。

全粒穀物の摂取のススメ

 食物繊維の摂取量と糖尿病などの生活習慣病の発症には負の相関関係があることは知られているが、どういった穀物の摂取が勧められるのであろうか。

 穀物は主食であり、コントロールしやすい食物である。とくに日本人の食物繊維摂取量は、米・小麦からの摂取量が多いが、近年の低炭水化物ダイエットの影響で穀物からの食物繊維摂取量は減っている。また、糖尿病で血糖値上昇を抑制させる食品は、多くのメタアナリシスより野菜や果物ではなく、穀物だとわかっている1)

 そこで、青江氏らは、どのような穀物、とくに全粒小麦と大麦の摂取が生活習慣病予防に効果をもたらすかどうか検討を行った。その結果、小麦全粒粉パンの摂取は小麦粉パンと比較し、食後血糖値の上昇を抑制する効果を確認したほか、小麦全粒粉配合パンの摂取は内臓脂肪の面積を有意に抑制した(小麦全粒粉配合パン:-4.0cm2、小麦粉パン:+2.9cm2)。

 後段の研究では、日本人でBMIが23以上の男女50人の健常人を対象に、小麦全粒粉配合パン(食物繊維11.1g/日)と小麦粉ロールパン(食物繊維3.4g/日)の12週間に及ぶ摂取の比較で行われた(プラセボ対照無作為化二重盲検試験)。

 これら結果の考察として、「食物繊維の多い小麦全粒粉配合パンでは胃内の滞留時間が長いため食後血糖値の上昇が抑えられること、長期の摂取によりアラビノキシランの大腸内発酵による短鎖脂肪酸が糖代謝、脂質代謝に影響すること」と同氏は説明した2)

内臓脂肪を減らす食材

 次に、大麦ごはんと大麦配合パンの摂取が食後血糖に及ぼす影響について報告した。もち性大麦の配合割合をごはんとパンで30~100%に変えて調査したところ、βグルカン量に依存して食後血糖値の上昇を抑制したという。この効果の仮説として、胃内での滞留時間の延長、糖質の消化吸収の阻害・遅延、未消化糖質の消化管下部への移送(GLP-1分泌促進)、腸内発酵を受ける(短鎖脂肪酸の産生/GLP-1分泌促進)という過程を経てなされると説明した3)

 また、もち性大麦ごはんの摂取では、被験者(内臓脂肪面積100m2以上の男女)の内臓脂肪面積だけでなく、体重、BMI、腹囲を有意に低下させたが、皮下脂肪には効果が弱かったという。

 最後に大麦の「セカンドミール効果」(ファーストミール[最初にとった食事]が、セカンドミール[次の食事]の後の血糖値にも影響を及ぼすというもの)について触れ、大麦に含まれるβ-グルカンは、消化管内で粘性を増すことにより糖質および脂質の消化吸収を抑制することで、食後血糖値の上昇および内臓脂肪蓄積を抑制する。また、大腸内発酵による短鎖脂肪酸が、セカンドミール効果や内臓脂肪蓄積抑制効果に関与することが呼気水素ガス検査や血清GLP-1濃度の上昇などから示唆されると説明した。

 以上からまとめとして、大麦の生活習慣病予防について、食後血糖上昇抑制効果、長期摂取による糖代謝改善、セカンドミール効果があることを示すとともに、課題と展望として「日本標準食品成分表の改訂に伴う食物繊維の目標量の増量の検討」、「全粒穀物の質のエビデンスの不足」、「全粒穀物を摂取した場合と抽出物を摂取した場合の研究結果の区別」の3点を示し、講演を終えた。

(ケアネット 稲川 進)

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3)青江誠一郎、ほか. 日本栄養・食糧学会誌. 2018;71:283-288.