抗精神病薬の長時間作用型持続性注射剤(LAIA)と経口剤(OA)の比較において、臨床アウトカムの改善を評価したエビデンスは、アジア人集団および、65歳超の高齢者、物質使用障害患者、LAIAによる早期治療開始患者などの特定の集団に限られていた。中国・香港大学のYue Wei氏らは、香港の統合失調症患者を対象に、LAIAおよびOAの使用に関連する疾患再発、ヘルスケアの利用、有害事象のリスクについて比較を行った。その結果、LAIAはOAと比較し、有害事象リスクを増加させることなく、疾患再発および入院のリスクを低下させることが示唆された。著者らは、中国の統合失調症患者の治療において、とくに疾患の初期段階からLAIAの長期使用を検討する必要があると報告している。JAMA Network Open誌2022年7月1日号の報告。
2004~19年に統合失調症と診断され、LAIAまたはOAを処方された患者を、Clinical Database Analysis and Reporting System of the Hong Kong Hospital Authorityより特定した。データの分析は2021年5月~8月に実施した。主要アウトカムは、疾患再発(精神疾患による入院、統合失調症による入院、自殺企図)、ヘルスケアの利用(すべての原因による救急科受診および入院)、有害事象(身体症状症による入院、心血管疾患による入院、錐体外路症状)のリスクとした。LAIA治療期間とOA治療期間のアウトカムを比較するため、ポアソン回帰を用いた。
主な結果は以下のとおり。
・統合失調症患者7万396例(女性:3万7,200例[52.8%]、平均年齢:44.2±15.8歳)のうち、2万3,719例(33.7%)がLAIAとOAの両方を処方されていた。
・LAIA治療期間は、OA治療期間と比較し、以下のリスクが低かった。
●すべての原因による入院(2万973例、発生率比[IRR]:0.63、95%CI:0.61~0.65)
●精神疾患による入院(1万9,283例、IRR:0.52、95%CI:0.50~0.53)
●統合失調症による入院(1万8,385例、IRR:0.53、95%CI:0.51~0.55)
●自殺企図の発生(1,453例、IRR:0.56、95%CI:0.44~0.71)
・LAIAのみで治療を行った患者は、OAのみで治療された患者と比較し、以下の有害事象が低下した。
●身体症状症による入院(1万5,396例、IRR:0.88、95%CI:0.85~0.91)
●心血管疾患による入院(3,710例、IRR:0.88、95%CI:0.81~0.96)
●錐体外路症状(2万2,182例、IRR:0.86、95%CI:0.82~0.91)
・救急科受診のリスクに、有意な差は認められなかった。
・高齢患者および物質使用障害患者においても90日超の治療期間に同様の関連が認められたが、LAIA使用開始90日までの高齢患者では錐体外路症状リスクのみ増加が認められた。
・LAIAを早期に開始した患者は、後期に開始した患者と比較し、これらのアウトカムイベントが有意に低かった。
(鷹野 敦夫)