国内でも症例がじわじわと増えているサル痘。皮膚病変だけではなく、扁桃炎や口腔病変が報告され、ペットからの感染リスクも出てきているというから、医療者はいつ自分が感染者対応に追われるかわからない。そんな時のためにもサル痘やそのワクチンの知識を蓄えておく必要がありそうだ。8月2日にはKMバイオロジク社の天然痘(痘そう)ワクチンLC16「KMB」にサル痘の効能追加が承認され、順次、感染リスクの高い医療者への接種が見込まれる。しかしこのワクチン、添付文書の用法・用量を見てみると“二叉針を用いた多刺法により皮膚に接種”となかなか特徴的である。
そこで今回、氏家 無限氏(国立国際医療研究センター/国際感染症センター トラベルクリニック医長・予防接種支援センター長)に協力いただき、同氏の所属施設が医療者向けに提供する動画「天然痘ワクチンガイド」とその補足情報についてお届けする。
◆参考◆ 添付文書だけではわからない!?サル痘ワクチンの打ち方
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―接種対象者は誰ですか?
厚生労働省の資料にも挙げられていますが、とくに泌尿器科、救急部門、皮膚科、眼科、性感染症を扱うクリニックの方が対象になるでしょう。また、患者検体を扱う臨床検査技師や保健所の方も該当すると考えます。
―過去に接種経験があっても接種するべきでしょうか?
痘そうワクチンは1976年に定期接種が廃止されているので、1975年以前に生まれている方は接種経験があります。しかし、今回サル痘に効能追加が承認されたLC16ワクチンは当時打っていたワクチンとは異なります。また、海外ではハイリスク者には定期的な接種が推奨されています。加えて、今回の流行における感染者には接種歴のある方も一定数いるので、適応があれば、接種を受けることが望ましいだろうと思います。
―接種方法と注意すべきポイントはなんですか。
サル痘の効能追加に伴い、LC16ワクチンの添付文書の用法・用量や妊婦、産婦、授乳婦等への接種の項などが改訂されたのでここは注意が必要です。痘そう予防の時の接種方法は「初種痘で5回、その他の種痘で10回」の記載でしたが、現在は「通常、専用の二叉針を用いて15回を目安」となっています[添付文書の6.接種時の注意(4)を参照]。また、妊娠している方に接種を行わないことが明記されました。
―接種後は免疫獲得の指標となる「善感反応」を確認するそうですが、これについて教えてください。
善感反応とは、種の跡がはっきりと付いて免疫が獲得されたことを示す状態(接種部位の膿疱、硬結、痂疲などの局所反応が確認できた状態)1)のことで、接種10~14日後にその反応を確認します。見た目は米国・CDC(疾病予防管理センター)のホームページに具体例が提示してあるので参考にしてください。この反応の出方も個体差が大きく、ひとつの模範例を示すのはなかなか難しいです。また、接種部位には弱毒化されたワクチンのウイルスが存在しているので、触らないようにしてください。データは乏しいですが、完全に皮膚が良くなるまでは注意が必要だと思います。
―副反応はどんなものが挙げられますか。男女差はありますか?
主な副反応として、過去の臨床研究2)では接種側の腋窩リンパ節腫脹が10~20%、37.5℃以上の発熱が1~3%程度報告されています。また、一般に安全性評価の臨床研究において女性のほうが副反応を報告しやすい傾向がありますが、重篤な副反応での明らかな性差は報告されていません。
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疑わないと診断できず、診断できないと感染対策につながらない
このほか、氏家氏はサル痘が4類感染症に位置付けられていることや世界情勢を踏まえ、各医療者に向けて以下について強調した。
「サル痘は4類感染症のため感染症指定医療機関のみが診療するものではなく、さまざまな症状(皮膚病変、口腔病変、眼病変など)を有することから種々の鑑別疾患が挙げられ、誰もが診る可能性のある疾患だ。現在は海外での男性同士の性的接触が感染拡大の主な原因だが、感染がさらに広がると海外渡航歴がないなど典型的ではない患者が診断されることも想定される。そのため、感染症の非専門医であっても、今回の流行で報告されている症状や感染経路(性交渉などに伴う接触感染など)、世界の感染者数増加を踏まえ、鑑別疾患に挙がる疾患(水痘、梅毒など)
3)4)が典型的な経過ではない場合では、ほかの疫学情報(性別、年齢、性交渉歴など)と併せて、サル痘を疑う目を持つことが重要である。
“疑わないと診断できず診断できないと感染対策につながらない”という問題を起さないためにも、社会的に感染状況を評価するためにも、常に情報を更新しながら適切な診療にあたってほしい」
サル痘は4類感染症、ただちに届出を
サル痘を診断あるいは検体した場合には感染症法に従い、ただちに最寄りの保健所へ届出を行う必要がある。厚生労働省は「サル痘への対応」通知において、疑い例及び接触者に関する暫定症例定義を以下のように示している。
1)「疑い例」の定義:原則、下記の[1]~[2]全てを満たす者とするが、臨床的にサル痘を疑うに足るとして主治医が判断をした場合については、この限りではない。
[1]
少なくとも次の1つ以上の症状を呈している。
・
説明困難*1な急性発疹(皮疹又は粘膜疹)
*1:水痘、風疹、梅毒、伝染性軟属腫、アレルギー反応、その他の急性発疹及び皮膚病変を呈する疾患によるものとして説明が困難であることをいう。ただし、これらの疾患が検査により否定されていることは必須ではない。
・発熱(38.5℃以上) ・頭痛 ・背中の痛み ・重度の脱力感 ・リンパ節腫脹
・筋肉痛 ・
倦怠感 ・
咽頭痛 ・
肛門直腸痛 ・
その他の皮膚粘膜病変
[2]次のいずれかに該当する。
・発症21日以内にサル痘常在国やサル痘症例が報告されている国に滞在歴があった。
・発症21日以内にサル痘常在国やサル痘症例が報告されている国に滞在歴がある者と接触があった。
・発症21日以内にサル痘の患者又は[1]及び[2]を満たす者との接触があった。
・発症21日以内に複数または不特定の者と性的接触があった。
・臨床的にサル痘を疑うに足るとして主治医が判断をした。
感染状況を患者に聞かれたら…
9月1日現在、WHO
5)がまとめた報告によると、世界で5万496例が確定、301例が可能性ありと報告され、死亡は16例にのぼる。男性同性愛者を除いた感染経路を見ても半数以上が性的接触によるもので、医療従事者の感染もほとんどが地域社会で院内感染は少ないと記されている。
これらの報告を踏まえ、患者に感染力や感染経路について聞かれた場合の説明について「麻疹などの感染症のように必要以上に日常生活での感染を恐れる必要はない。法律上でも行動範囲の規制があるわけではなく、性交渉による接触感染を筆頭に考えられ得る感染経路(性感染症、飛沫感染、エアロゾル感染など)は多々あるものの、新型コロナウイルスでも実施している、密接を避ける、手洗いをする、換気を行うといった基本的な感染対策をしていれば、感染リスクは低い」と述べた。
参考
1)
国際医療研究センター病院:天然痘(痘そう)ワクチンについて
2)Saito Tomoya, et al. JAMA. 2009;301:1025-1033.
3)
国立国際医療研究センター 国際感染症センター:感染症対策支援サービス
4)
国立感染症研究所:令和4年度緊急企画サル痘研修会(令和4年7月29日開催)
5)
WHO:Emergency situation reports
厚生労働省:サル痘
厚生労働省事務連絡:サル痘に関する情報提供及び協力依頼について
(ケアネット 土井 舞子)