境界性パーソナリティ障害(BPD)でみられる幻覚・妄想は、これまで十分に研究されていなかった。オーストラリア・スウィンバーン工科大学のZalie Merrett氏らは、BPD患者の多感覚幻覚・妄想を現象学的に調査し、統合失調症スペクトラム障害(SSD)患者でみられるこれらの症状との比較を行った。併せて、臨床精神病理学的調査も行った。その結果、BPD患者では多感覚幻覚・妄想が頻繁に認められることから、BPDを治療する場合にはこれらの症状の把握が重要であることが報告された。Journal of Personality Disorders誌2022年8月号の報告。
調査対象は、成人患者89例。幻聴ありBPD群、幻聴なしBPD群、高BPD特性SSD群、低BPD特性SSD群の4群に分類した。
主な結果は以下のとおり。
・BPD患者のうち、幻覚および幻触が81%、幻嗅が75%で報告され、妄想は94%が経験していた。
・幻聴の有無にかかわらずBPD患者を比較したところ、非精神病性精神病理学の特徴に有意な差は認められなかった。
・BPDの幻覚とSSDの幻覚の比較では、わずかな違いが認められたが、全体的には同様であった。
・BPD群は、SSD群と比較し、パラノイア/不信感、罪業妄想の割合が有意に高かった。
(鷹野 敦夫)