HER2陰性乳がんの周術期に新しい選択肢
2022年9月5日、アストラゼネカは、都内にて「早期乳がん治療におけるリムパーザの役割」をテーマにメディアセミナーを開催した。
BRCA遺伝子変異陽性がんで使用されるリムパーザ
リムパーザは
BRCA1および/または
BRCA2遺伝子の変異などの相同組換え修復(HRR)の欠損を有する腫瘍細胞において、PARPを阻害し、DNAの修復を阻止することでがん細胞死を誘導する。
日本では2018年1月に「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」を効能・効果として承認され、同年7月に「がん化学療法歴のある
BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」を適応として乳がん治療での使用が承認された。そのほかにも
BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法などさまざまながんで使用されている薬剤である。
そして、2022年8月24日、リムパーザは「
BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術後薬物療法」で追加承認を取得した。
早期乳がん患者を対象としたOlympiA試験
セミナーでは国際共同第III相試験、OlympiA試験について、愛知県がんセンター副院長・乳腺科部長、岩田 広治氏が詳しく説明した。
OlympiA試験は国際共同第III相試験であり、日本人140名を含む生殖細胞系列
BRCA1/2遺伝子変異陽性HER2陰性の早期乳がん患者1,836名が対象。
主な選択基準はStageII~IIIのHER2陰性(HR+ or トリプルネガティブ)であり
BRCA1/2遺伝子変異陽性、そして標準的な化学療法を受けた患者であり、リムパーザ投与群とプラセボ投与群に1:1で割り付けられた。
主要評価項目である無浸潤疾患生存期間(iDFS)は12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点でそれぞれリムパーザ投与群で93.3%、89.2%、85.9%、プラセボ投与群で88.4%、81.5%、77.1%であった。観察期間中央値はリムパーザ投与群で2.3年、プラセボ投与群で2.5年であった。ハザード比は0.58(95%信頼区間[CI]:0.490~0.816)、p=0.0000073であり、リムパーザ投与群でIDFSの有意な延長が検証された。
安全性に関して、リムパーザ投与群で10%以上の頻度で認められた有害事象は悪心、疲労、貧血、嘔吐、頭痛などであった。特徴的な有害事象としては貧血が挙げられる。リムパーザ投与群で貧血は全Gradeで23.6%、≧Grade3で8.7%認められた。周術期に使用しても貧血には注意する必要がある。また、嘔吐などの消化器毒性にも同じく注意が必要である、と岩田氏は指摘した。
周術期の新たな選択肢
リムパーザの効能追加により、乳がん周術期の治療選択はどう変わっていくのか。「これまではエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2発現などを見て治療を組み立てていたが、今後は
BRCA遺伝子変異の有無を確認する必要が出てきた。初回の乳がん診断確定時、つまり周術期の
BRCA検査の意義は遺伝性乳がん卵巣がん症候群の確定診断のみであった。しかし、リムパーザの効能追加によってコンパニオン診断としての意義が加わることになる。今後は
BRCA検査を実施し、陽性であれば術式選択と同時にリスク低減手術を考慮する。そして、再発高リスクならリムパーザを投与する、という流れで乳がん治療を組み立てていく必要があると考えている」と岩田氏は強く訴え、セミナーを終了した。
(ケアネット)