転移を有する乳がんに対するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の有効性をHER2高発現、HER2低発現、HER2陰性の3群で評価したDAISY試験において、T-DXdの作用機序と耐性機序を検討した結果を、フランス・Gustave RoussyのMaria Fernanda Mosele氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。
DAISY試験は多施設共同非盲検第II相試験で、転移を有する乳がんにおけるT-DXdの有効性をHER2高発現群(IHC 3+またはIHC 2+/ISH+)、HER2低発現群(IHC 2+/ISH-またはIHC 1+)、HER2陰性群(IHC 0)の3群に分けて評価し、バイオマーカー解析を実施した。有効性についてはSABCS 2021、バイオマーカー解析についてはESMO BREAST 2022ですでに報告されている。
今回、T-DXdの作用機序をさらに探るために、ベースライン時およびT-DXd 1サイクル終了後2~4日目における生検(8ペア)でのHER2発現量に応じた空間ゲノム応答をGeoMxで評価した。ベースライン時の生検(88例)とマッチさせた血液検体(83例)、病勢進行時の生検(20例)とマッチさせたベースライン時の検体(10例)を全エクソームシーケンスで解析し、1次および2次耐性を調べた。病勢進行時のHER2高発現患者の生検(6例)のT-DXd分布をIHCで評価した。
主な結果は以下のとおり。
・T-DXdに対するトランスクリプトノーム反応はHER2発現レベルにより異なっていた。
・ベースライン検体における再発ドライバー変異には耐性と関連しているものはなかった。ただし、ベースライン時の88例中5例(6%)にERBB2ヘミ接合型欠失が検出され、そのうち4例はT-DXdに反応がなかった。
・病勢進行時の検体で20例中4例(20%)にSLX4変異が検出された。2例がベースライン検体で検出されておらず、2例はベースライン時のサンプルがなかった。2つの乳がん細胞株で、SLX4欠失がDXdに対する耐性を媒介した。
・病勢進行時に6例中4例でT-DXdの取り込みがみられ、4例中2例でHER2発現が減少していた。
これらの結果からMosele氏は、「ERBB2ヘミ接合型欠失はT-DXdの耐性と関連している可能性があり、SLX4はDXd耐性を誘発する可能性がある」と推察した。また、「HER2発現はT-DXd投与における病勢進行時に減少するが、T-DXdの取り込みが主要な耐性メカニズムであるという確固たるエビデンスはない」と述べた。
(ケアネット 金沢 浩子)