新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染から1年間のコロナ罹患後症状(Post-COVID-19 Condition:PCC[いわゆるコロナ後遺症、long COVID])について、米国の商業保険データベースを用いて未感染者と比較した大規模調査が、保険会社Elevance HealthのAndrea DeVries氏らによって実施された。その結果、コロナ後遺症患者は心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが約2倍上昇し、1年間の追跡期間中の死亡率も約2倍上昇、1,000人あたり16.4人超過したことが明らかとなった。JAMA Health Forum誌2023年3月3日号に掲載の報告。
コロナ後遺症群の死亡率は2.8%で未感染群は1.2%
米国50州の18歳以上の健康保険会員において、2020年4月1日~7月31日の期間にCOVID-19に罹患し、その後コロナ後遺症と診断された1万3,435例と、未感染者2万6,870例をマッチングし、2021年7月31日まで12ヵ月追跡してケースコントロール研究を実施した。評価項目は、心血管疾患、呼吸器疾患、死亡など。コロナ後遺症の診断は、疲労、咳嗽、痛み(関節、喉、胸)、味覚・嗅覚の喪失、息切れ、血栓塞栓症、神経認知障害、うつ病などの症状に基づいて行われた。統計学的有意性はカイ2乗検定とt検定で評価し、相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。Kaplan-Meier法を用いて死亡率を算出した。
コロナ後遺症について未感染者と比較した大規模調査の主な結果は以下のとおり。
・コロナ後遺症群(1万3,435例)の平均年齢は50.1歳(SD 15.1)、女性7,874例(58.6%)。PCC群のうち3,697例がCOVID-19診断後1ヵ月以内に入院していた(平均年齢57.4歳[SD 13.6]、女性44.7%)。未感染群(2万6,870例)の平均年齢は50.2歳(SD 15.4)、女性1万5,672例(58.3%)。
・コロナ後遺症群はCOVID-19を発症する前に、高血圧(39.2%)、うつ病(23.7%)、糖尿病(20.5%)、COPD(19.1%)、喘息(中等症/重症)(13.3%)、高度肥満(10.3%)などの慢性疾患を有する人が多かった。
・コロナ後遺症群の追跡期間中によく観察された症状は、息切れ(41%)、不安(31%)、筋肉痛/脱力(30%)、うつ病(25%)、疲労(21%)だった。
・コロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。
-不整脈の発症率:PCC群29.4% vs.未感染群12.5%、RR:2.35(95%CI:2.26~2.45)
-肺塞栓症:8.0% vs.2.2%、RR:3.64(95%CI:3.23~3.92)
-虚血性脳卒中:3.9% vs.1.8%、RR:2.17(95%CI:1.98~2.52)
-冠動脈疾患:17.1% vs.9.6%、RR:1.78(95%CI:1.70~1.88)
-心不全:11.8% vs.6.0%、RR:1.97(95%CI:1.85~2.10)
-末梢血管疾患:9.9% vs.6.3%、RR:1.57(95%CI:1.48~1.70)
-COPD:32.0% vs.16.5%、RR:1.94(95%CI:1.88~2.00)
-喘息(中等症/重症):24.2% vs.12.4%、RR:1.95(95%CI:1.86~2.03)
・追跡期間中の死亡率はコロナ後遺症群2.8% vs.未感染群1.2%で、コロナ後遺症群は1,000人あたり16.4人の超過死亡となる。
・COVID-19発症初期に入院を経験したコロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。
-不整脈:51.7% vs.17.4%、RR:2.97(95%CI:2.81~3.16)
-肺塞栓症:19.3% vs.3.1%、RR:6.23(95%CI:5.36~7.15)
-虚血性脳卒中:8.3% vs.2.7%、RR:3.07(95%CI:2.59~3.66)
-冠動脈疾患:28.9% vs.14.5%、RR:1.99(95%CI:1.85~2.15)
-心不全:25.6% vs.10.1%、RR:2.53(95%CI:2.32~2.76)
-末梢血管疾患:17.3% vs.8.9%、RR:1.94(95%CI:1.75~2.15)
-COPD:43.1% vs.19.2%、RR:2.24(95%CI:2.11~2.38)
-喘息(中等症/重症):31.6% vs.14.7%、RR:2.15(95%CI:2.00~2.31)
コロナ罹患後症状に関する米国での最大規模の追跡調査において、コロナ後遺症患者は死亡率だけでなく心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが有意に増加し、とくにCOVID-19発症初期に入院した人では肺塞栓症が6倍、脳卒中が3倍以上など、さらにリスクが高くなることが示された。また、本研究はワクチン利用可能以前のサンプルを用いているため、ワクチン普及後では、ワクチンのコロナ後遺症緩和効果により、個人の医療利用パターンが変化する可能性もあると著者は指摘している。
(ケアネット 古賀 公子)